圧倒的に低い原価率が容認される秘密 知られざる外資スーパーブランドのビジネスとは
売れるだけ売れ!
残れば運賃着払いで本国に返品すればOK
ところが外資トップメゾンは違う。トップメゾンのリージョンがやっているのは、大きく4つに大別される。
- 過去の趨勢から見たマーチャンダイジング(MD) –売上予想
- 調達物流とShip back (返品)
- 出店、店舗販売員教育
- デジタル
である。例えば、MDという業務があるが、リージョンごとに複数のブランドのまとめ役として、必要なMDと売上計画を各リージョンに設置されたホールディングスがまとめてゆく。ホールディングスは、それをグローバルに送るのだが、グローバルは、これを「参考程度」にしか扱わず、最後は「これだけ売れ」と、トップダウンでShip out (本国からリージョンへ出荷すること)をするわけだ。当然、各リージョンは与えられた商品を消化すべく様々な販売計画を立てるも、在庫が残るときは残るものだ。驚くべきは、こうして残った余剰在庫は Freight collect (飛行機運賃着払い、リージョンへの輸入時に支払った税金による簿価分も含め)、本国が「売り戻し処理」を行ってくれ、リージョンには損失在庫による利益の減少は全く無いわけだ。
したがって、各リージョンのCEO(グループCEOは別かもしれないが)に利益責任がないのである。その企業は、輸入為替も円建てで行っており、「円安だったから」などという言い訳も一切通用しない。
“馬”のマークさえ付ければ競合品の倍の値段で売れる!
その仕組みづくりが本社の仕事
なお、意外に収益貢献をしている事業はお客さまへのアフターフォローである。時計や鞄であれば純正品によるパーツ交換などだ。ここも、国としてマイスター(職人)を尊敬する文化が欧州にあるため、定期的に欧州から技術者が日本を訪れパーツ交換や修理などの技術を教え込む。
平たくいえば、「私(本社)、考える人、あなた(リージョン)、売る人」と分業化が明確化されており、それぞれの組織にミスも少ないし、時間もスローペースで流れているように思う。
ここでわかりやすくするために、一例としてラルフローレンを想像してみて欲しい。もちろん、これは分かりやすさを優先したからであり、完全なフィクションであることは最初にお断りしたい。
各リージョンの商品が多少本国とデザイン上のブレがあっても、「馬のマーク」を左胸に刺繍で織り込んでおけば、世界でプレミアム価格で売れる仕組み作るのである。これこそが本社の仕事の本質だといえる。
“これからは質の時代” は意味不明なロジック
規模が大きくなれば、(LVMHの営業利益総額はトヨタを抜いた)、グループ内では小さくても、グローバル・ガリバーに勝つことが可能だ。例えば、ブランディングに無知な日本の人と話すると、「ブランド」というものが金で買えると本気で信じている人が多い。しかし、考えてみれば分かるが、ある人が生涯をかけて築いてきた「人との信頼」をブランドだとするなら、そのブランドを確かなものにするためには、やはり「時間」が必要だ。金を積めば「信頼」が買えると考えていることこそが勉強不足なのだ。
私は今から7年ほど前に、これからの企業買収は、垂直統合、水平統合に第三の軸、「ブランド統合」が生まれると日経ビジネスで予言した。トップメゾンは、例えば、イタリアの片田舎の小さい王室御用達企業があったとしても、M&Aにより巨大なコングロマリットにいれ、極めて戦略的かつ優先的に資金をその小さなブランドに配分、例えば「VOGUE」などの一流雑誌のトップページに定期的に掲載することも可能だ。
今、マーケティング戦略といえば、まず広告費を投下し一人あたりのレスポンスレートをだし、客単価 x 離脱までの期間で、回収する形になっている。
だが、ブランドビジネスというのは、ある一定量の大量資金を固定費であるかのごとく、(ブランドになるまで)出し続ける。いわば「原価のような振る舞い」をする。そこにはROAS(投下広告に対するリターン)という概念はないのだ。
ここがわかっていないから、ブランドを持つものはますます強くなるし、持たざるものは人に知られもせずに消える可能性もある。
トップメゾンが絶対に明かさない売上高原価率
さて、このように何年もロジスティクス(物流 x 倉庫)、基幹システムのグローバル展開、店舗教育などをやり、ストレステスト(仮に、計画通りに売上が進んだ場合、バリューチェーン上のどこにボトルネックが顕在化するのか、また、その解決案は何か)をひたすらやってきた私にとって、ブランドビジネスは単純であるといえば単純ではあった。だが、それだけに非常に“Well organized”されているため、経営コンサルタントの役割は「足りない手を貸すこと」になる。そのためこうした仕事は、コンサルファームの中では、あまり人気はなかったようだ。
しかし、オペレーション競争も限界に来ている今、私たちは来るべき「世界化」に向け、そして、「ブランド拡張戦略」による付加価値向上をしてゆくため、参考になる話は山のようにあるはずだ。なおトップメゾンにとって、売上高原価率はトップシークレットとなっており、外部には絶対に明かされない。圧倒的に低い原価率であることは確かだが、そのことに対して、誰も文句を言わないことが、そのブランドの強さを物語っているのである。
プロフィール
河合 拓(経営コンサルタント)
ビジネスモデル改革、ブランド再生、DXなどから企業買収、
デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言
筆者へのコンタクト
https://takukawai.com/contact/
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