圧倒的に低い原価率が容認される秘密 知られざる外資スーパーブランドのビジネスとは

河合 拓 (株式会社FRI & Company ltd..代表)
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売れるだけ売れ!
残れば運賃着払いで本国に返品すればOK

Neyya/istock
Neyya/istock

ところが外資トップメゾンは違う。トップメゾンのリージョンがやっているのは、大きく4つに大別される。

  1. 過去の趨勢から見たマーチャンダイジング(MD売上予想
  2. 調達物流とShip back (返品)
  3. 出店、店舗販売員教育
  4. デジタル

 である。例えば、MDという業務があるが、リージョンごとに複数のブランドのまとめ役として、必要なMDと売上計画を各リージョンに設置されたホールディングスがまとめてゆく。ホールディングスは、それをグローバルに送るのだが、グローバルは、これを「参考程度」にしか扱わず、最後は「これだけ売れ」と、トップダウンでShip out (本国からリージョンへ出荷すること)をするわけだ。当然、各リージョンは与えられた商品を消化すべく様々な販売計画を立てるも、在庫が残るときは残るものだ。驚くべきは、こうして残った余剰在庫は Freight collect (飛行機運賃着払い、リージョンへの輸入時に支払った税金による簿価分も含め)、本国が「売り戻し処理」を行ってくれ、リージョンには損失在庫による利益の減少は全く無いわけだ。

したがって、各リージョンのCEO(グループCEOは別かもしれないが)に利益責任がないのである。その企業は、輸入為替も円建てで行っており、「円安だったから」などという言い訳も一切通用しない。

“馬”のマークさえ付ければ競合品の倍の値段で売れる!
その仕組みづくりが本社の仕事

なお、意外に収益貢献をしている事業はお客さまへのアフターフォローである。時計や鞄であれば純正品によるパーツ交換などだ。ここも、国としてマイスター(職人)を尊敬する文化が欧州にあるため、定期的に欧州から技術者が日本を訪れパーツ交換や修理などの技術を教え込む。

平たくいえば、「私(本社)、考える人、あなた(リージョン)、売る人」と分業化が明確化されており、それぞれの組織にミスも少ないし、時間もスローペースで流れているように思う。

ここでわかりやすくするために、一例としてラルフローレンを想像してみて欲しい。もちろん、これは分かりやすさを優先したからであり、完全なフィクションであることは最初にお断りしたい。

各リージョンの商品が多少本国とデザイン上のブレがあっても、「馬のマーク」を左胸に刺繍で織り込んでおけば、世界でプレミアム価格で売れる仕組み作るのである。これこそが本社の仕事の本質だといえる。

これからは質の時代は意味不明なロジック

規模が大きくなれば、(LVMHの営業利益総額はトヨタを抜いた)、グループ内では小さくても、グローバル・ガリバーに勝つことが可能だ。例えば、ブランディングに無知な日本の人と話すると、「ブランド」というものが金で買えると本気で信じている人が多い。しかし、考えてみれば分かるが、ある人が生涯をかけて築いてきた「人との信頼」をブランドだとするなら、そのブランドを確かなものにするためには、やはり「時間」が必要だ。金を積めば「信頼」が買えると考えていることこそが勉強不足なのだ。

私は今から7年ほど前に、これからの企業買収は、垂直統合、水平統合に第三の軸、「ブランド統合」が生まれると日経ビジネスで予言した。トップメゾンは、例えば、イタリアの片田舎の小さい王室御用達企業があったとしても、M&Aにより巨大なコングロマリットにいれ、極めて戦略的かつ優先的に資金をその小さなブランドに配分、例えば「VOGUE」などの一流雑誌のトップページに定期的に掲載することも可能だ。

今、マーケティング戦略といえば、まず広告費を投下し一人あたりのレスポンスレートをだし、客単価 x 離脱までの期間で、回収する形になっている。

だが、ブランドビジネスというのは、ある一定量の大量資金を固定費であるかのごとく、(ブランドになるまで)出し続ける。いわば「原価のような振る舞い」をする。そこにはROAS(投下広告に対するリターン)という概念はないのだ。

ここがわかっていないから、ブランドを持つものはますます強くなるし、持たざるものは人に知られもせずに消える可能性もある。

トップメゾンが絶対に明かさない売上高原価率

さて、このように何年もロジスティクス(物流 x 倉庫)、基幹システムのグローバル展開、店舗教育などをやり、ストレステスト(仮に、計画通りに売上が進んだ場合、バリューチェーン上のどこにボトルネックが顕在化するのか、また、その解決案は何か)をひたすらやってきた私にとって、ブランドビジネスは単純であるといえば単純ではあった。だが、それだけに非常に“Well organized”されているため、経営コンサルタントの役割は「足りない手を貸すこと」になる。そのためこうした仕事は、コンサルファームの中では、あまり人気はなかったようだ。

しかし、オペレーション競争も限界に来ている今、私たちは来るべき「世界化」に向け、そして、「ブランド拡張戦略」による付加価値向上をしてゆくため、参考になる話は山のようにあるはずだ。なおトップメゾンにとって、売上高原価率はトップシークレットとなっており、外部には絶対に明かされない。圧倒的に低い原価率であることは確かだが、そのことに対して、誰も文句を言わないことが、そのブランドの強さを物語っているのである。

 

プロフィール

河合 拓(経営コンサルタント)

ビジネスモデル改革、ブランド再生、DXなどから企業買収、政府への産業政策提言などアジアと日本で幅広く活躍。Arthur D Little, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナーなど、世界企業のマネジメントを歴任。2020年に独立。 現在は、プライベート・エクイティファンド The Longreach groupのマネジメント・アドバイザ、IFIビジネススクールの講師を務める。大手通販 (株)スクロール(東証一部上場)の社外取締役 (2016年5月まで)
デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言
筆者へのコンタクト
https://takukawai.com/contact/index.html

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記事執筆者

河合 拓 / 株式会社FRI & Company ltd.. 代表

株式会社FRI & Company ltd..代表 Arthur D Little Japan, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナー等、世界企業のマネジメントを歴任。大手通販 (株)スクロール(東証一部上場)の社外取締役 (2016年5月まで)。The longreachgroup(投資ファンド)のマネジメントアドバイザを経て、最近はスタートアップ企業のIPO支援、DX戦略などアパレル産業以外に業務は拡大。会社のヴィジョンは小さな総合病院

著作:アパレル三部作「ブランドで競争する技術」「生き残るアパレル死ぬアパレル」「知らなきゃいけないアパレルの話」。メディア出演:「クローズアップ現代」「ABEMA TV」「海外向け衛星放送Bizbuzz Japan」「テレビ広島」「NHKニュース」。経済産業省有識者会議に出席し産業政策を提言。デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言

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