【落語家・立川志ら乃のスーパーマーケット徒然草】マルエツの「マリトッツォ」が新作落語の救世主になった話
「ゾンビ落語」の新作づくりに苦戦していた最中…
高田馬場にある「マルエツオレンジコート店」で出会った「マリトッツォ」が、新作落語の救世主になるとはその時はまだ気が付いていなかった――。
毎年「ゾンビ」をテーマにした新作落語をつくるようになって5年が経ちます。それは俳優・入江雅人さん主催の「ゾンビフェス」にお声がけいただいたことがきっかけ。「私ってそんなにゾンビ好きだったっけ…?」と思いながらも、まだまだ続けて行く予定です。
新作落語のつくり方というのは本当に人それぞれで、私の場合は「頭に浮かんだアイデア」をかたちにするだけではどうにもならない。そこに「声を大にして言いたい!」という自分自身の本気の叫びなのか魂なのかわからないが、とにかく熱量の高い”何か”がないと筆が止まるのです。
今回は早々に「頭で閃(ひらめ)いたアイデア」があり、それを元に噺の骨子はできていたのだけれども、心の底から声を大にして言いたい!という何かがないので、噺に血が通いません。ちなみに基本的に声を大にして言いたくなる内容は、「言っても言わなくても誰の人生も変わらないどうでもいいもの」が大半なのですが。
後に救世主となる、高田馬場のマルエツで邂逅した「マリトッツォ」
そんなある日、『スーパー打ち上げ友達』(スーパー打ち上げについては過去の本連載をご参照ください)の児玉美樹さんと高田馬場の「ゲーセンミカド」へ行った帰り、
「高田馬場だといつもオオゼキに行くから、今日はちょっと離れたマルエツ行ってみる?」
と、高田馬場駅の戸山口から少し歩いたマルエツオレンジコート店へ。
大きなマンションの下にちょっとした商店街が組み込まれており、その中にマルエツはありました。ボンヤリ店内を歩いていると、児玉さんが、
「師匠!マリトッツォ!!!」
と、明らかに何かのスイッチが入ったテンションの声を発しました。
その時マリトッツォなるものの存在をまったく知らなかった私は、その単語が理解できず、
「え?なに?どうしたの?」
「マリトッツォですよ、マリトッツォ!」
「…なにそれ?」
「半年くらい前から流行り出してるスイーツです!」
「そうなんだ…じゃあ買っちゃう?」
「…でも私クリーム苦手なんですよ。」
苦手な食材なのに、なぜそんなに嬉しそうなテンションになったんだ?という疑問を素直にぶつけてみました。
「クリーム苦手なのに、なんでそんなに嬉しそうなの?」
「クリームは苦手なんですけど、その隣にあるショコラタイプのものは初めて見たので、そっちだったら行けるかなと思って。」
確かに白いクリームがたっぷり挟まっているマリトッツォの隣に、パウダー状のショコラがまぶしてあるマリトッツォが売られていました。それを見ながら児玉美樹が、
「でもなぁ、まぶしてあるだけだとクリーム感が強いからちょっと難しいかなぁ…あぁどうしよう!」
苦手な食材、でも流行のスイーツに一度は触れておきたいというのが乙女心なのか…。
このやりとりでどのくらい伝わっているかわらからないけれど、とにかくマルエツの中でこんなに気持ちが揺さぶられている人を私は見たことがありません。
”マリトッツォ落語”を披露していたら…
そんな女子の流行スイーツに対する熱量をそばで浴びた日から、あらためて世の中を見てみると、こんなにもあるのか!というくらいマリトットォがあふれていました。現段階で流行語大賞にノミネートされているのもうなずけるほど。
そして私は、「定期的に流行りのスイーツに飛びつくのは日本特有の伝統文化である」というテーマを考案。詳しい内容は寄席で聴いていただくとして、たびたび江戸の街を襲ってくるゾンビに打ち勝っていくという新作落語をつくるに至ったのです。スーパー打ち上げというものを始めたおかげで、新作落語をつくることができたわけです。
それからしばらくしたある日。高座でとりつかれたようにマリトッツォの噺をしていたら、その落語会のスタッフから「師匠!楽屋の冷蔵庫を開けてみてください(ニヤリ)」と耳打ちされました。見てみると、成城石井で売られているあまおうジャムが生地に塗られているマリトッツォ2個入りパックが出演者の人数分!
好きなものは声を大にして好きだと言って行こうと思いました。
あと、余談ですが、この原稿を書いている時、ツイッターで「(寿司専門店の)古市庵でネギトロのマリトッツォなるものを購入しました」的なツイートを見かけましたが未確認です。
立川志ら乃
1974年2月24日生まれ。98年3月、立川志らくへ入門。2012年12月に真打ち昇進。16年7月に「スーパーマーケットが好きである」ことを突如自覚。スーパーに関する創作落語に「グロサリー部門」「大豆なおしらせ」など。寄席やイベントなどのスケジュールは下記Twitter・ブログをご参照ください。
Twitter:@tatekawashirano
ブログ:https://ameblo.jp/st-blog/
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