医師が教える小売業の現場で行うべきコロナ禍のメンタルケア ポイントは「共感」と「正しい情報」

若狭 靖代(ダイヤモンド・チェーンストア 記者)
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 メンタル不調を脱出するためには「ルーティン」を持つ

――コロナによるメンタルの不調の例や症状にはどのようなものがありますか?

梅田 あくまでも私の外来診療での経験ですが、「不安が強くなっている」「先が見えない」「何が正しくて何が正しくないのか困惑する」といったものが実際の声としてありました。また、焦燥感を訴える方や、世間的に飲み会などで人と会うことが憚られる状況ですから、孤立感を募らせている方もいます。メンタルの不調を感じる方には、不安を抱えこんで一人で鬱々としてしまっている方が多いのではないでしょうか。
 日本赤十字社が公開している資料に、「新型コロナウイルスの3つの顔を知ろう」というものがあるのですが、今、これに書かれていることがまさに起こってきていると感じています。コロナが起こす“感染症”には3つある、という内容で、一つ目は「COVID-19」という病気そのもの。二つ目が、「不安と恐れ」で、三つ目が「嫌悪・差別・偏見」なんですね。興味深いのは、病気そのものだけではなく、あとの二つも「感染する」と表現しているところです。実際に不安が不安を呼んでいるようなところがありますし、感染者への嫌悪感・差別のようなことも出てきていますよね。正しい情報を持って、「正しく恐れる」ということをしないと、さまざまな「感染」は拡大する一方となってしまい、そして共感が失われていくのです。

参考:日本赤十字社「新型コロナウイルスの3つの顔を知ろう!~負のスパイラルを断ち切るために~」

――必要以上に不安にならないために、日頃からできる工夫や気を付けられることがあれば教えてください。

梅田 短くて良いので、自分をコントロールできる時間を持つことです。コロナという見えないものに振り回されて、解決策も出口もない、自分の力ではどうしようもないという状況から抜け出して、自分で自分をコントロールするという感覚を取り戻すことが大切です。長い間よくわからない不安にさいなまれると、「もう、ここから抜け出すことはできないんだ…」という感覚になってしまいますからね。
 具体的には何でも良いのですが、例えばテレワークでも仕事をする前はきちんと着替えるとか、オンとオフを切り替えるスイッチ、ルーティンを持つことです。休憩の時には好きなお茶を飲もうとか、散歩しようとか、簡単なもので構いません。心のバランスを保つために、ルーティンは実はとても大切なんです。

――最後に小売業界で働く方々へ向けてメッセージをお願いします。

梅田 感染への不安はあると思いますが、何でもかんでも危険なのではなく、どういう行動が危険なのかがわかってきました。ファクトをしっかり共有しあって、「正しく恐れる」ことを意識しましょう。
 今の状況は、やはり人によっては不安を強く感じるものです。お客さまから厳しいことを言われたり、スタッフ同士でも上手くコミュニケーションがとれなかったりする場面があるかもしれませんが、共感を持って相手の立場に立って対応することが大切です。もちろん、理不尽なことがあっても我慢しろということではありませんが、不安の広がりを食い止めて、皆さんの心をつなぎとめるものは、私はやはり共感だと考えています。

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