アングル:米自動車部品業界、需要回復もコロナで人集め苦戦
[デトロイト 8日 ロイター] – 米国では新型コロナウイルスで数百万人が職を失った。しかし米自動車業界では今、サプライヤーが生産ラインに配置する十分な人数を確保するために奔走。出勤状況が良い場合に褒賞金を出したり、子供のいる求人者を引き付けるため職場に先生を配置するといった策に頼っている。
ゼネラル・モーターズ(GM)やフォード・モーターなどが顧客のエンジニアリングと機械メーカー、モベックス・グローバルのジョー・パーキンス最高経営責任者(CEO)は、需要拡大に応じるため従業員の超過勤務を増やしている。国内工場12カ所に対して80人分を募集しようと、給与を増額したり賞与も提示したりしている。「これがわれわれの最も重大な問題になっている」という。
パーキンス氏によると、人材紹介業者約10社を使い、リンクトインなどいくつもの求職サイトを利用。地元のニュース放送局でも求職情報を流し、住宅地の芝生にも立て札を立てる。地元の新聞や広告看板、さらには公共交通機関向けや教会の会報など、求人に手を尽くしていると話す。
米国の自動車産業は通常、景気低迷で打撃を最初に受け、立ち直りは最も遅い方だ。しかし新型コロナ禍は異なる。新車の需要は既に回復しているが、業界幹部によると、感染懸念や子供の世話で労働者の多くが家を出られない状況のなか、全米の失業率はまだ高どまりしているにもかかわらず、賃上げを余儀なくされる経営者がいる。
ボストン・コンサルティング・グループのブライアン・コリー氏によると、自動車業界のサプライヤーの多くは現在、職場に必要な人数に対して10-15%が欠勤している状態。このため全米自動車労組(UAW)幹部によると、同労組は自動車メーカーに対し、臨時の労働者を雇う裁量を緩めた。
自動車外装部品のプラスチック・オムニウム傘下の燃料システムや排ガス削減システムメーカーのCEOは、出勤状況の良好な従業員に褒賞金を出していると話す。
新型コロナに伴う生産停止措置で、自動車業界の例にもれずサプライヤーの利益も打撃を受けた。今や、サプライヤーは労働者を引きつけるための賃上げを余儀なくされたり、納品需要に応じるために残業を増やしたりしている結果、さらなる負担が生じている。
労働統計局によると9月の自動車部門の平均時給は28.21ドルに上昇し、7月の27.65ドルを上回った。前年9月の27.57ドルよりも高い。自動車部品工場の週平均残業時間は8月に4.3時間となり、1月と2月それぞれの3.8時間を超えた。
人材仲介アデコのダン・スパローン副社長は「一番の話題はとにかく賃金だ」と述べた。同氏によると時給を5ドルも引き上げた工場もある。
自動車業界幹部によると、より小規模なサプライヤーは賃金が大手や自動車メーカーよりも低いため、より強い圧力にさらされている。
9月の雇用統計の米失業率は7.9%だったが、統計局によると職には就いているが出勤できていない人たちが調査に間違って答えている可能性があり、働けていない人の実態は8.3%だったと推計される。しかし、耐久財部門だけで見ると同月の失業率は5.7%となった。
インディアナ州の製造業は3月と4月に合計約8万5000人が失業したが、8月末にかけて約5万1000人が再就職、製造業雇用は約50万1000人に回復した。ミシガン州の自動車部門の雇用は新型コロナでほぼ半減し、ピーク時の4月に約9万6000人になったが、ここから8月末にかけて71%回復した。
コンサルタント会社アリックス・パートナーズのダン・ヒールシュ氏によると、デトロイト郊外のレーザー機器会社は、子供の面倒を見なければならない従業員を出勤しやすくするため、職業訓練室をオンライン授業のスペースとし、子供の勉強を助ける先生も1人雇った。
従業員の残業が最小になるようにシフトを調整する経営者もいるという。自動車のシャシーや車体を製造するムベアのジェームズ・シーハン北米CEOは「結局、超過勤務をさせ過ぎることになるが、そうすると嫌がって辞めてしまう。また新規採用しなければならなくなる」と話した。同社も採用や紹介に協力する従業員向けに最大2000ドルの特別手当を出している。優秀な臨時従業員の採用では最大4000ドルの紹介料を承認した。
マンパワーグループのメリッサ・ハセット副社長は「サプライヤーはこれから訪れるインフルエンザ流行期を恐れている。既に人手が不足しているからだ」と語った。