1年で株価2.3倍!三陽商会、24年度上期黒字化の意味と残された大きな課題とは
本日は、10月6日に発表された三陽商会の2024年2月期第2四半期決算説明の内容に沿って私の分析を披露したい。結論から言えば、ターンアラウンド(再生)のスタート地点に立ったという点で現経営陣のスピード感を評価したい。株価も1年前の22年10月末の1177円から23年10月27日時点で2696円となり、わずか1年で約2.3倍となった。
一方でこのままでは、今後5年の戦いは相当厳しいものになるという強い懸念も感じた。現在に至るまで明確な将来ビジョンが示されていない点がとくに気がかりだ。今回、私がそのように断じる根拠を書いていく。なお、本寄稿は私個人の分析による一つの意見であることを最初にお断りしたい。
23年2月期に続き、24年2月期上期も!連続黒字は本物か?
三陽商会と云えば、連続赤字とリストラを繰り返し、バーバリーを販売していた頃の下代ベース(百貨店など小売の仕入れ額ベース)売上約1500億円(07年12月期:1431億円)から、収益認識会計導入による上代ベース売上で約600億円(23年2月期582億円、下代ベースでは約420億円:家賃見合いを30%として引いた)と売上が1/3まで縮小した記憶があり、一時は外資アクティビストファンドのRMBキャピタルによって、プロキシーファイト(株主と経営が総会で対決すること)まで発展しかけた。赤字とリストラを幾度か繰り返したが、ようやく前期(23年2月期)に営業黒字化を達成。24年2月期第2四半期も、計画差+5億円で7億円の営業黒字を計上、しっかりと利益をだし構造改革の名のもとにリストラを進めてきた。
ここに至るまでは苦難の連続で、ひとえに前任経営陣の戦略、そこにつけ込むコンサルやデジタルベンダーに頼り切る体質に本質的な問題があったように思う。20年5月より社長に就任している大江伸治社長は、強いリーダーシップで不必要人材やデタラメ戦略をまっとうなものにした。就任当時、「火中の栗を拾う」ことになる、と言われていたことを思い出す
三陽商会は職人が集まったような会社で、合理的な経営や科学的な分析をどちらかといえば苦手にしていたように見えたが、大江社長は極めて合理的なやり方で同社のビジネスモデルを定量的評価指標に沿いながら「勝てるフォーマット (コストの売比の黄金比)に戻した。
しかし、私が指摘したいことは、「ただ元に戻っただけ」という点だ。前期下期と今期上期がともに営業黒字となったが、この勝ち方は、世界企業のビジネスモデルをこの論考で紹介したような「21世紀的勝ち方」かと云えば違うといわざるを得ず、あえて言えば「昭和的」なのだ。
その根拠は以下の4点に集約できる。
- チャネルの百貨店依存率は65%と依然高い
- EC比率は13%と依然低迷
- もっとも大きな問題だった在庫を絞り込み適正化した
- 係数ばかりが目に入るが、企画力の向上にどのような手を入れたのか不明
つまり、ビジネスモデルは昔のままで、ある意味同社の得意な土俵に立たせただけのように見えるのだ。例えば、24年2月期上期の販管費率は59.5%と極めて高く、原価率は48%(売上総利益率の逆数)で、円安のことを考えればおそろしく低い。ただこのからくりは粗悪品を使っているのではなく、単品上代(平均売価)を12ポイントも上げた結果だ。これだけの円安に「原価の高騰」を口にしているアパレルは少ない。私は、この構造は夏に収録した小島健輔氏との対談で予想した通りで、最近流行の「値下げはやりません」という、コロナ明けのリベンジ消費に円安によるインバウンド増加と爆買いの二つがブーストした結果と言える。
様々な統計が物語っているように、日本は世界で類を見ない老人国家に突入しイノベーションは全く生まれず、企業の内部留保、個人のタンス預金が過去最高に膨れあがっている。金が市場を駆け巡らないのは、もはやアパレル産業うんぬんの話しでなく、産業政策の問題のように思う。
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