第69回 ショッピングセンターの「対前年主義」は時代遅れの理由と解決策
小売業は常に前年実績との差(前年対比)を意識する。非常に分かりやすい指標でもあり、不動産賃貸業であるショッピングセンター(SC)でさえ、入居テナントの総計をSCの売上のごとく前年に「勝った、負けた」と一喜一憂する。実はこの体質が視野狭窄をもたらし、成長を阻むことになる。今回は、この「前年比」について解説する。
重要なのは賃料収入より売上?
売上は分かりやすいKPI
どんなビジネスでも定量的に評価する数値があるが、小売業において一番分かりやすい数値が「売上高(販売額)」、そして「前年比」だ。そのため、本来目指すべきKGI(Key Goal Indicator)であるはずの利益よりも、「売上高」や「前年比」の方にフォーカスされることが多い。
最近も都内に立地する百貨店の売上高がバブル期を超えると報道された。関係者達は沸き立っているが、それがどれほどの営業利益とROAにつながっているのだろうか。都心の一等地に立地し、駐車場棟を別棟で構えた上での資産効率、そして、多くの社員を抱えた経費構造と利益額。これが分からなければ企業としての評価にはならない。
SC運営でも店舗サポートを業務とするフロア担当者が配置される。彼らは店舗巡回と称し、店舗を周り、情報を収集しつつ、テナントの営業活動のサポートや時には管理規則の徹底などの責務を負う。
その中でも店舗の売上向上に資する活動を中心に行うことが多く担当店舗の賃料総額や歩合賃料と固定賃料の比率も分からず、売上だけに着目した行動が多い。
確かに売上の向上は大切であるものの店舗の売上は自社の収入ではなくテナントの収入に他ならない。決してテナントの売上高をないがしろにしているわけではなく、SCビジネスにとってテナントの売上高はKPIの一つに過ぎないのである。
なぜ売上高前年比を重視するのか
SC運営がテナント売上を重視する理由は2つある。一つは、「テナントが退店するのは売上が悪いから」と考えているからである。もちろん、売上は高いに越したことは無いが、テナントが退店する理由は、売上が悪いからではなく損失が出ているからである。もちろん、(利益を念頭においた)目標売上高を下回れば営業損失になるが、多少の売上減少が即損失につながるわけではなく、売上だけにフォーカスする活動には改善の余地はあろう。
そしてもう一つの理由は、賃料収入がテナントの売上高に比例するからであり、そのために前年比という単純化されたKPIを追い求めることにもなっている
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