#3 ニトリはチェーンストア理論を「まるごと全部」実行し、圧倒的成功を収めた
ダイエーも犯した失敗とは
もっとも、こうした指摘は半世紀たった今だから言えることです。当時、国内小売業の売上高10傑のうち9社までを占めていたのは百貨店でした。1カ所で生活に必要な商品すべてを買える「ワン・ストップ・ショッピング」の利便性を消費者が求めていた時代でもあった。
67年の時点で、百貨店(総合小売業)の限界を喝破し、「企業の持つ資本、技術、人材には限りがある。片端から手をつけてゆくことはやめ、何か少数のことのために、全能力を集中しよう」と、特定分野に経営資源を集中するよう呼びかけた渥美氏はさすがと言うしかありませんが、この忠告に素直に耳を傾けた経営者が当時、どれほどいたでしょうか。

渥美氏の門下生で当時、最も成功を収めていた中内㓛氏のダイエーは63年、神戸の三宮に「S.S.D.D.S」(セルフサービス・ディスカウント・デパートメントストア)なる地上6階、地下1階の巨艦店を開店。これによって日本型総合スーパー(GMS)業態を確立し、72年には三越を抜いて小売業日本一に上り詰めました。
食品店や衣料品店から身を起こした経営者の多くが「疑似百貨店=GMS」を一つの到達点と捉えていたのです。そうした時代背景を踏まえれば、当時のコープさっぽろが“素人同然”の衣料品に手を広げた経営判断も一概に責めることはできないでしょう。
チェーンストア理論を忠実に実践し、北海道流通に革命をもたらしたコープさっぽろは、こうしてあっさり挫折してしまいました。だが、それと入れ替わるようにチェーストア理論の新たな申し子が登場します。ニトリ(現ニトリホールディングス)創業者の似鳥昭雄氏です。70年代前半に渥美氏の著作に出合い、感銘を受けた似鳥氏は78年にペガサスクラブに入会し、渥美氏が亡くなるまで師弟関係を続けることになります。
「マジック」ではなく「ロジック」…「やるなら、まるごと全部採り入れないとうまくいかない」
札幌の一介の家具販売店が、チェーンストア化によって購買力を高めた結果、メーカーから価格決定権を奪い、ついには商品開発の主導権も握って、良質安価な自社企画商品を次々生み出していく-。こうしたニトリの成功の軌跡は「渥美先生の教えを信じてやり続けた」結果であると似鳥氏自身が公言している点は重要です。

似鳥氏の著書「ニトリ 成功の5原則」(朝日新聞出版)に象徴的なくだりを見つけることができます。
<先生はよく「いいところだけを取ってこようとしてもダメだ。やるなら、まるごと全部採り入れないとうまくいかない」と言っておられました><私たちはそれを素直に学び、いいとこ取りをしようとしたりせずに、まるごと全部実行していった。それによって大きく成功することができたのです>
チェーンストア理論に自己流のアレンジを加えて失敗していく。そんな経営者たちに対する渥美氏の忸怩たる思いが伝わってくるかのようです。
「似鳥さんのよさは素直さとフレキシビリティだ」。渥美氏は生前、そうも語っていたそうです。日本の流通・外食業界でチェーンストア理論の影響を受けていない企業を探すのは困難ですが、似鳥氏ほど「素直」に理論を実践し続けた経営者はいないのではないでしょうか。その結果が、2019年2月期まで32期連続増収増益という圧倒的な成功です。

60年代後半にコープさっぽろが北海道で取り組んだ「チェーンストア理論の実験」は、ニトリに引き継がれて大きく開花したという見方もできるでしょう。北海道流通の競争力は、経営者の勘やひらめきといった「マジック」(魔法)ではなく、体系化された「ロジック」(論理)によってもたらされたのです。
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