10月開催の「シアル・パリ2024」は食の多様化と課題をどう解決するか?
食の多様化がグローバルで加速するなか、運営サイドはシアル・パリの意義や重要性をどう見ているのか。そして、日本からの参加者に期待することとは何か。シアル・ネットワークジェネラルダイレクターの二コラ・トラントゾー氏に聞いた。
シアル・パリは単なる展示の場ではない
──食に対する消費者ニーズや消費トレンドが多様化するなか、世界最大級の総合食品見本市であるシアル・パリの役割はどう変化していると見ていますか。
トラントゾー とくにコロナ禍を経て、食を取り巻く環境は大きく変わりました。シアル・パリとしても、そうした変化に寄り沿うことが求められていると感じています。
最も大きく、重要な課題として認識しているのは世界的な人口の増加です。増加率こそ下がっていますが、世界総人口はまだまだピークアウトしていません。つまり、人口増をカバーするだけの規模の食市場を維持しないといけないわけですが、それは簡単なことではありません。
同時に、食料自給率が低迷する国も増えてきています。そうした食資源の少ない国では、日々食べる食材そのものを変えなければならない、「食のトランジション(移行)」を検討する必要も出てくるでしょう。
またコロナ禍では、先進国を中心に外食から内食へのシフトも顕著になりました。食品メーカーや小売業では、提供する商品の規格や設計自体の再考も迫られました。そのほかにも、フードテックやAIなど、食市場に密接にかかわる技術革新も進んでいます。
シアル・パリは、単に世界中からさまざまな食品を集積して提案するという場ではありません。食市場で起きている変化やトレンドを参加者全員が共有でき、各々が抱える課題解決のヒントを発見できる場を提供する。それがわれわれの重要な役割だと認識しています。
──世界的なインフレに伴う物価高騰も、食ビジネスに大きな影響を与えています。これに対してシアル・パリはどのようなソリューションを提供できますか。
トラントゾー インフレによって食へのアクセスが困難になり、選択肢が狭まっていることは事実です。たとえばヨーロッパでは、高所得者層がアルディ(Aldi)のようなハードディスカウンターに流入するという現象が、ここ数年加速しています。
そうしたなかで“Simply Good”、「シンプルだけど、おいしい」という特徴を持った食品へのニーズが高まっています。より少ない材料と工程で製造できて、手に入りやすい価格で、それでいて味や品質はよいという商品です。
ただし誤解してはならないのは、そうした商品だけに需要が集中するわけではないということです。消費者はその時々のシーンに応じて、「味には多少目をつぶっても安いものを選ぶ」こともあれば、「品質に妥協せず、よりよいものにお金を払う」といったふうに考え方を切り替えています。
そうした消費マインドは、近年指摘されている食の多様化をより促進させることになるでしょう。実際に今年のシアル・パリで展示される商品やサービスは、そうした多様性を参加者に実感させるものになるでしょう。
食市場をグローバルで俯瞰することが重要
──今年のシアル・パリについて日本からの参加者に向けてとくにアピールしたい点はありますか。
トラントゾー 日本に限った話ではありませんが、自国の食市場のみに注意を払っていては、グローバルで進む食の多様化を理解することはできません。シアル・パリはその理解を促すための重要な場になると断言できます。
繰り返しになりますが、シアル・パリは単なる食の展示会ではありません。消費トレンドを予測したり、商品開発のヒントを得たり、新たなテクノロジーに出合ったりと、食ビジネスのさらなる成長・拡大を図れる「機会」なのです。バイヤーに限らず、マーケティングに携わる方にとっても意義ある場になるはずです。
また、バイヤーの方については、言語の壁はあるかもしれませんが、とにかく各ブースで密なコミュニケーションをとっていただきたいです。というのも、輸入食材を自国で“定番化”させることは非常に難しく、そのハードルを越えるためには、商品に関する“深い”情報──開発の背景、開発者の思い、その国での消費トレンドなどをバイヤー自身が認識しておく必要があるためです。
今年は展示スペースがとくに広大です。時間は限られるかもしれませんが、ぜひ隅から隅まで、さまざまな国と地域からやってきた出展者のブースをできるだけ訪れ、自社の成長につながるような商品・サービスとの出合いにつなげていただきたいです。