アングル:アジア非正規労働者に脱炭素の逆風、支援にもハードル
[クアラルンプール 2日 トムソンロイター財団] – 世界が気候変動対策で化石燃料からの脱却を進めると、アジアにおける大量の非正式労働者が弱い立場に追いやられるとして、当局者や専門家から懸念の声が出ている。
国際労働機関(ILO)によると、世界の非正式労働者20億人のうち、アジア太平洋地域は約3分の2を占めている。その範囲は工業から農業に及ぶ。特別な保護を受けないパートタイムや一時雇用を含む非正規労働者が労働人口全体に占める割合は、この地域全体で平均68%だ。
ILOが今週、「公正な移行」をテーマに開いたフォーラムでは、低炭素社会に移行し再生可能エネルギーなどの分野での雇用を増やしたいアジア諸国にとって、非正規労働者への対処が大きな課題になる、との指摘が出た。
非営利組織「統合的山岳地開発国際センター」でネパールの生活と移民問題を専門とするアミナ・マハルジャン氏は、非正規労働者が長年の生計手段を失わないようにする対策が重要だ、と訴えた。
例えば、インドやインドネシアなど石炭に依存する国々では、多くの地域が石炭の採掘で生計を立てている。世界が脱化石燃料の取り組みを進めれば、消滅する仕事だ。
マハルジャン氏は、太陽光発電や環境配慮型の交通など、新しい「質の高い仕事」によって労働者が恩恵を得られるよう、セイフティーネットや職業訓練などの支援が必要になると述べた。
今年11月の国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)では、気温上昇を抑える取り組みを「社会的に公正」な方法で達成することが優先課題に挙げられた。
おおまかに言うと、「公正な移行」とは、グリーンな経済への移行による恩恵が幅広く行きわたるようにするとともに、脱炭素化によって経済的不利益を被る人々を支援する取り組みを指す。
乗り合いバス
一部の途上国は、財政・技術の両面で国際支援がなければ移行は難しいと訴えている。非正規労働者の存在感が大きいアジアの一部では、さらに複雑な問題がのしかかると当局者らは言う。
フィリピンでは、広く普及している「ジープニー」と呼ばれる乗り合いバスを政府が段階的に廃止し、環境にやさしい公共交通機関に移行する取り組みを進めている。しかし、強い反対に直面している。同国に約20万台あるジープニーの運営会社や運転手は、この政策に対して「貧困者を苦しめる」動きであり、生計が脅かされると訴える。
同国財務省のパオラ・アルバレス長官補は、農村部や都会の貧困層の大半にとって、ジープニーは「非公式の交通手段」を提供していると説明。「われわれが目配りすべきは、移行によって影響を被る運転手や労働者に対し、いかに正当な法的資格を与えるか、という問題だ」とILOのフォーラムで述べた。
バイクタクシーの運転手から農業従事者まで約7000万人の非正式労働者を抱えるインドネシアでも、経済の柱である中小企業や零細事業が労働者の転換・再訓練を行えるようにすることが鍵となる。
国家開発企画省・環境問題部門の専門家、アンナ・アマリア氏は「職能プログラムが非常に重要になってくる」と指摘。小さな企業は通常、良い労働環境や労働者の権利保護を提供する能力が限られていると付け加えた。
エネルギー以外にも
途上国は、COP26で「公正な移行」に関して先進国からの支援強化を求めた。その中には、南アフリカ、インド、インドネシア、フィリピンの各国が石炭火力発電から脱却し、迅速かつ社会的に公正な方法でクリーンエネルギーに移行するのを支えるための25億ドルの財政支援プログラムが含まれる。
アジア開発銀行の気候変動専門家、ケイト・ヒューズ氏は、公正な移行の必要性についてはコンセンサスができているが、議論の焦点は、それを最も良い形で実現する方法に移っていると説明。「行う必要があることは良く認識されているが、実際的な手本が限られている」と述べ、ILOに明確な指針を示すよう求めた。
ヒューズ氏は「漁業、交通、森林、農業など、影響を受ける産業は非常に多い。われわれは公正な移行の議論をエネルギーセクター以外にも広げていく必要がある」とも述べた。