コラム:インフレ対応に劣る日本企業、3つの数字が象徴 株安要因に
[東京 21日 ロイター] – 世界的なインフレ傾向が、日本にどのように波及しているのかを示す3つの数字がある。0.5、8.5、41.9だ。これは昨年12月の消費者物価指数(除く生鮮、コアCPI)と企業物価指数(CGPI)、輸入物価指数の前年比だ。企業努力でCPIが抑制されていることがわかるが、価格転嫁できずに業績を圧迫しているとも言える。
欧米市場では価格転嫁が円滑に進行している企業への資金流入が活発化しているが、日本企業の対応は出遅れている。原材料価格の世界的値上がりが続く中で、日本企業によるインフレ対応力がぜい弱と投資家に映れば、日本株の先行きには厳しい局面が待っているかもしれない。
広がるCPIとCGPIのギャップ
総務省が21日に発表した2021年12月の全国CPIのうち、コアCPIは前年比プラス0.5%だった。携帯電話料金の引き下げ分が1.48%ポイントあるので、この特殊要因がなければ、2%に接近していた可能性がある。
ただ、日銀の黒田東彦総裁は18日の会見で、足元の物価上昇は原油やその他の原材料価格の上昇による部分が大きく、この現象は「一時的」であり、現行の超緩和策の修正を検討する段階ではないと断言した。このため市場はこのデータに「無反応」だったと言える。
しかし、日銀が14日に発表した同年12月の企業物価指数(CGPI)と比較すると、ある現象が起きていることがわかる。国内企業物価指数は前年同月比でプラス8.5%、円ベースの輸入物価指数は同41.9%だった。
日本企業がモノの流通の上流、中流、下流の各段階でコスト吸収努力を行った結果とみえるが、価格転嫁が進んでない現状を端的に示している数字とも言える。この点は、日銀が昨年12月に発表した短観のデータでもうかがえる。大企業製造業の仕入れ価格判断DIはプラス49だったが、販売価格判断DIはプラス16にとどまった。2つのDIのギャップは、その前の短観から拡大した。
原油価格や原材料価格の上昇が継続し、価格転嫁が思うように進まないなら日本企業の収益は幅広い業種で圧迫されることになる。
原材料価格の行方
WTI先物は今年1月に入って中東情勢の緊迫化などを背景に騰勢を強めており、原油市場では1バレル=100ドルや120ドルへの上昇を予測する分析が出て、足元における米長期金利の上昇を誘発。米株の下落が日本株の下落に波及して、21日の東京市場では日経平均が一時、前日比600円超も下げた。
市場の一部には、4月以降は原油価格が下げに転じ、日本のCPIもコアベースで1.5%付近から低下するとの声もある。ただ、カーボンニュートラルの世界的な潮流の中で産油国の設備投資は、中小国を中心に抑制されており、中長期的に需給が緩和して原油価格が下がるとみるのは、希望的観測かもしれない。
その他の原材料価格もCRB指数が上昇基調を描き、米投資銀などの一部の参加者は「スーパーサイクル」入りとみて、強気の見通しを示している。日本企業にとって、原材料価格の上昇は大きな「収益圧迫要因」として意識せざるを得ないだろう。
米で評価される値上げ企業
米国では年明けに米連邦準備理事会(FRB)幹部が「タカ派転換」した発言を続け、市場が3月からの年間3回ないし4回の利上げを織り込みに行って足元で株価の調整が始まるまで、値上げを行った企業への資金流入が目立ち、米株上昇の大きなエンジンになっていた。
欧米の市場では、世界のインフレ傾向は「一時的」ではないとのコンセンサスが形成されつつあり、投資の判断として「インフレに強い」ことが意識され出している。
日本企業のアキレス腱
この流れで見ていくと、価格転嫁に消極的ないし弱気な経営者が多い日本企業にとっては、難しい局面が継続しそうだ。
21日の日本株下落によって、日経平均は2万7000円の攻防が意識され出している。原油価格の上昇─米長期金利の上昇─米株の下落─日本株下落の流れの中で、日経平均の下げ幅が足元で大きくなっている理由は何か──。
市場では、岸田文雄政権の発足後から、日米の株価のギャップが拡大し出しているとの見方がある。海外勢などからは、1)金融資産への課税強化など株式市場に厳しい岸田政権のスタンス、2)明確な成長戦略が打ち出されていない、3)オミクロン株対応で外国からの人流を止めるなど「鎖国政策」を取っている──などの要因が指摘されている。
そこに「インフレ対応に弱い日本企業」というイメージが広がり出すと、最初に売って最後に買い戻す株と意識されることにもなりかねない。
もし、今年の春闘でも賃上げを抑制し、価格転嫁を最小限にして「籠城」する体制を構築する日本企業が多くなれば、株式市場で値下がりする銘柄が増えてしまうのではないか。
世界的なインフレ傾向を逆手にとって、付加価値の高い製品を開発・販売してマージンを確保していく「攻めの経営」に転じる経営者が増えてほしいと願うばかりだ。
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