Mr. CHEESECAKE田村浩二社長に聞いた、“人生最高のチーズケーキ”の現在地
流通業界の注目企業の経営トップをリレー形式で取材する本連載。第3回に登場するのは、「人生最高のチーズケーキ」「幻のチーズケーキ」で知られるMr. CHEESECAKE(ミスターチーズケーキ)の田村浩二氏だ。連載第1回に登場した10Xの矢本真丈社長CEOと公私で関係が深いという田村氏は、料理人として長年経験を積んだ後に、D2C企業を創業した異色の経歴の持ち主だ。田村氏に創業の経緯や今後の展望について話を聞いた。
本当によいものをオンラインで届ける世界
──Mr. CHEESECAKEを設立した経緯を教えてください。
田村 私がまだレストランで仕事をしていたときのことです。母がお店に来て食事をした後に「おいしかったけどよくわからなかった」と言ったことがありました。色々なお店で修行し、世界的な料理の最先端も見て表現をしていたのですが、一番身近な存在である母がまっすぐに「おいしい」と感じられなかったことがどこかでひっかかっていました。
そうした経験から、「誰が食べてもおいしく、どこよりもおいしいものをつくれないか」と考えるようになり、仕事の傍らプライベートで自分が最も好きなチーズケーキをつくりSNSに写真をアップするようになりました。すると、それを見た人から「食べたい」という声が寄せられるようになり、実際にチーズケーキを販売するようになったのがきっかけです。
──そこから事業化に至ったきっかけは何だったのでしょうか。
田村 最初はInstagramのDMで連絡を受けていましたが、注文が殺到し、最初の3週間ほどで対応できなくなってきました。私は求められると応えたくなる性格なので、睡眠時間を削ってつくる数を倍にしましたが、当時はレストランでの本業もありましたので、次第に対応できなくなっていきました。
こうした体験から、自分が思い描く料理人の新しい働き方や、本当によいものをオンラインで届けるという世界をつくれるのではないかと思い、創業に踏み切りました。
「チーズケーキのためのスプーン」を販売する理由
──Mr. CHEESECAKEはD2C企業と言われることが多いですが、リアル店舗を持つ意義についてはどう考えていますか。
田村 最近は、「移動する」ことの負荷がすごく上がっている気がしています。どんな情報も瞬間的にスマホで手に入る時代に、わざわざ店舗に行くためには、「そこにしかないもの」がなければなりません。「この人に会いに行きたい」「この人から買いたい」といった、オフラインだからこその機能がしっかり備わっていないと、店舗に行く理由がありません。逆に、そうした理由づけができれば、リアル店舗は強みになると思います。
──D2Cとして成功するために重視されていたことはありますか。
田村 感謝の気持ちも含め、自分が考えていることをなるべくSNSで発信するようにしていました。僕たちは「時間をいただく」という感覚で商品をお届けしています。大切な人とちょっといい時間を過ごすために当社のケーキがあって、それを食べるためにちょっといいコーヒーを飲むといった具合に、総合的な体験や時間の価値の素晴らしさみたいなものを届けたいと思っています。
──Mr.CHEESECAKEのオンラインショップでは、チーズケーキだけでなく、“Mr. CHEESECAKEのためのスプーン”としてチーズケーキ本来の味わいを引き出すというスプーンも販売しています。ユニークな取り組みですが、どのような考えで行っているのでしょうか。
田村 レストランでは料理に合わせて器もカトラリーも変えられますが、D2Cではそこまで踏み込むことができません。どんな家庭でも「一番おいしいと思える状態」で当社の商品を食べてもらい、より良い時間を過ごしていただきたい、そんな思いから僕たちなりの“接客”としてスプーンを扱っています。