「難民問題は社会の損失」ユニクロが難民支援に力を入れる理由とは
難民キャンプでも「現場・現物・現実」
ユニクロの難民支援が多くの企業と違うのは、衣料寄付であっても、関係団体にものを渡して終わるのではなく、自分たちで難民キャンプ現地に行って手ずから難民の人たちに服を配布したり、社員をUNHCRの事務所に派遣していることだ。ここでも「現場・現物・現実」の考え方が染みついていることがわかる。
現場で見聞きしたことや、気づいたことを会社に持ち帰り、柳井社長はじめ経営陣に報告する。その生々しい報告を聞いた経営陣と一緒に、すぐさま、次はもっとこういうことをしなければ、あるいはこんなことができるのでは、と話し合い、UNHCRへ新たな協力を申し出る。その繰り返しから、UNHCRとの結びつきも強くなっていった。
「服って誰にとっても平等というか、服を持っていくと老若男女、どなたにも喜んでいただけるんです。難民キャンプのように緊急時の生活を送っている人たちにとっては、ユニクロの服のようなベーシックで機能性もあるもの、とくにフリースなどは軽くて暖かくてすぐ乾くので大人気です。しかもそれを自分たちだけでなく、お客様にご協力いただいているからこそ継続できる。支援することにおいては、単発のプロジェクトではなく、続けていかれるということがとても大事なんだと思います」(シェルバ氏)
UNHCRとのパートナーシップ
UNHCRと行動を共にして世界の現状を知っていく中で、ユニクロは「服を届けただけでは難民の問題は何も解決にはならない、もっと掘り下げていかなければ」ということにも気づき始める。自分たちができることを探していき、その取り組みは自立支援や就労支援へと広がっていった。
2022年11月9日、ファーストリテイリングとUNHCRは合同記者発表会を開き、バングラデシュ・コックスバザールにある難民キャンプで、ロヒンギャ難民の女性を対象にした自立支援プロジェクトとして、生理用の布ナプキンを生産・配布する活動への支援を始めたことを発表した。
難民の女性たちに縫製技術をトレーニングして、生理用の布ナプキンなどを生産。出来上がった製品をキャンプ内で配布することで、生活物資の支援となり、同時に、生産に携わった女性たちが報酬を受け取ることができる、という仕組みだ。2017年のロヒンギャ危機から5年が経ち、難民キャンプでの生活が長期化している中での、新しい形の難民支援である。
このプロジェクトも、過去にUNHCRコックスバザール事務所に派遣されたユニクロ社員が、難民キャンプでの女性の衛生面に課題があることを知り、現地NGOと共に行った活動がベースとなっているという。
また最近では、新型コロナウィルス感染症対策のためマスクの寄付(300万点以上)、ウクライナからドイツやポーランドに逃れてきた人たちへの支援(2022年の寄付金額11.5億円)、トルコ地震の被災者支援(100万ユーロ)などにも、UNHCRとユニクロが一緒に取り組んでいる。
柳井正社長と難民問題
先の記者発表で、柳井正社長は、「これ(難民問題)は我々の問題でもある」「日本では、違う国の文化を受け入れてインテグレート(一体化)していくことを、ほとんどの人が知りません。日本人が国際化する、異文化と一緒に生活する、仕事をする機会はあまりにも少なすぎた」と熱をもって話した。
そして、集まったメディアに向かって、「困っている人を助けることが、将来を助けてもらうことになるんです。服屋として何ができるか。世界がより平和になるように、みなさんのご協力をよろしくお願いいたします」と頭を下げた。
「柳井社長は、常々、難民問題を『社会的な人材の損失』と言っています。世界中でこれだけの人たちが、本来は経済活動にも参加でき、自分の人生を謳歌できるはずなのに、その機会を与えられていない。そのこと自体が、その人の人生にとってもロスですし、社会全体にとっても損失である。だから、自分たちは難民支援をやっている、と。グローバルで大きな視点であると同時に、経営者としての視点でもあると感じます」(シェルバ氏)
事業経営をする以上、その事業を安定的に継続させていくことが第一の目標だ。逆に言えば、平和で安定した社会が維持されない限り、自分たちのビジネスも成り立たっていかない。ユニクロが難民支援に取り組むのは、グローバルに事業活動を行う企業として、経済基盤を作るために当然の帰結ということなのだろう。
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