アスリートと取り組む次世代育成 #1 ユニクロのグローバルブランドアンバサダーとは
アスリートのパフォーマンスをサポートするウェア開発
もう一つの大きな目的は、競技用ウェアの開発と、そのノウハウを活かしたアイテムの一般販売である。
スポーツブランドでないアパレルブランドがアスリートに対してウェアの提供をすることはままあるが、ほとんどは競技以外のときに着用するウェアの提供だ。ユニクロも、以前からオリンピックの公式服装の提供などはしていたが、選手契約をしたアスリートに対する競技用ウェアを提供するのは2009年に契約した国枝慎吾選手が初めてだった。国枝選手は、すでにその前年の北京パラリンピックでも金メダルを獲っていた。いわば人生をかけて競技に取り組む超一流の選手に対して、彼らのパフォーマンスをサポートするウェアを作るには、ブランドとしても相当な覚悟と試行錯誤が必要だったに違いない。
しかし、そのチャレンジは、結果的にビジネスとしての成功にもつながった。選手のウェア開発の過程で生まれた「ドライEX」「感動パンツ」「ハイブリッドダウン」といった商品は、その後一般にも広く販売し、ユニクロの人気商品となっている。
たとえば、ダウンと中綿を使用した「ハイブリッドダウンジャケット」は、スノーボードとスケートボードで活躍する平野歩夢選手のウェア開発から誕生した。
「平野選手はいわゆるオーバーサイズのウェアを好むんですね。と同時に、スノーボード競技では、当然1cmでも1mmでも高く飛びたい、そこに挑戦しているわけです。ですから、我々もそれを実現するためにウェアをどんどん軽くしていきたい。一方で保温性も必要です。そこで、ダウンに吸湿発熱性のある中綿素材を組み合わせて、軽量化と保温性を担保しました。彼はスタイリッシュさも大切にしていて、飛んだ時のシルエットにも非常に気を遣うので、それも鑑みたうえで、彼が求めるシルエットも追求しました」(文原氏)
通常、スポーツブランドが契約選手のためにウェア開発をしても、レプリカモデルとして一般に販売する際には素材や仕様を変えてしまうか、もしくは高価格帯の数量限定商品となるケースが多い。大きな理由は、コストの問題だ。
契約選手用のウェアは、ある意味、採算度外視で作るが、一般販売に適した価格にするためには、素材を含めある程度スペックを下げる必要がある。だから、多くの場合、レプリカモデルと銘打って販売されている商品でも、実際に選手が着用しているものとデザインは似通っていても素材などのスペックが大きく異なるのである。
ところが、ユニクロは、もともと生産する規模とサプライヤーとの戦略的パートナーシップの中で低価格を実現するスキームを目指しており、選手への提供するウェアも原則、そのスキームの中で作っているため、選手用の高スペックウェアを作ったとしても他社のように価格が大幅に跳ね上がることがない。
我々消費者にとっては、超一流プレイヤーの知見が存分に盛り込まれた製品を、通常のユニクロ商品とあまり変わらない値段で手に入れることができる。これは、他のスポーツメーカーではなかなか見られないことだ。
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