値上げ時代に考えたい、戦略的な「値下げ」マーケティングとは
値上げを許容しない日本社会
マーケティングと関係ないじゃん!と思わずにお聞きいただきたい。
江戸時代は日本人の平均体重・身長が最も小さかったとされる。一説には、封建制度下で国内で食料の融通がしづらかったこと、そして鎖国政策によって食料の輸入もできず、相次ぐ飢饉に対処できなかったことがその要因として指摘されている。鎖国は独自の文化を育んだが、一方で日本をガラパゴス化させたのだ。
その後、幕末期の開国を経て文明開化に至り、国力も向上。2度の大戦を経たのちに高度経済成長期を迎え、バブルに沸き、物価も賃金も上昇するという奇跡を日本は体験した。そして幾星霜(いくせいそう)……。バブル崩壊後の「失われた30年」、そして直近のコロナ禍で、日本はあるいは再び内に閉じこもる時代を過ごしてきた。
長くデフレが続き、モノの価格は下がり続けた。それが当たり前とされた結果、今日のインフレ下においても、値上げを“犯罪”かのように見る向きも決して少なくはない。そこまでではないにしろ、昨年とあるテレビ番組で日用品の値上げについてインタビューを受けた際、若いADから「一斉値上げが日本で起きたことはないですよね」と真顔で訊かれたこともある。「いやいや、あなたが生まれる前の高度経済成長期には毎年今以上の勢いで値上げが進んでいたよ」と伝えたのだった。
最近になってようやく値上げを受容する風潮も出てきたが、一方で生活者の懐事情が厳しいことも事実だ。そうした状況下で、「値下げのニュース」はメディアで大きく取り上げられる。
たとえばローソンはおにぎりや弁当を4~20%値引き、イオンも日用品を中心にプライベートブランドの値下げを発表、生協も主に食品で値下げを決め、そうしたニュースは注目を浴びやすいからメディアもこぞって報じるのだ。
たしかに、一部の原料では相場もやや落ち着きを見せてはいる。しかし人件費や物流費の高騰は依然顕著であり、それを考慮すればまだ値下げを選択する局面ではない。
しかし小売