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西友買収に名乗り出た3社をトップアナリスト、市場関係者が徹底評価!勝者は誰?_再掲

取材:小野 貴之 (ダイヤモンド・チェーンストアオンライン 副編集長)
構成:編集プロダクション雨輝
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トライアルホールディングス(福岡県)は3月5日、西友(東京都)の株式を取得し完全子会社化することを発表した。イオン(千葉県)、パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(東京都)なども売却先の候補に挙がっていたなか、結果として西友を手にしたのはトライアルだった。市場関係者は買収報道をどう受け止めていたのか。『ダイヤモンド・チェーンストア』2025年2月15日号の記事を再掲する。

米投資ファンド、コールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)が西友(東京都/大久保恒夫社長)の売却に動いていると報じられてから1カ月超が経過した。

実現すればここ数年では最大規模の大型M&A(合併・買収)が実現することになるが、今回の報道を株式市場の関係者はどう受け止めているのだろうか。小売のトップアナリスト、UBS証券シニアアナリストの風早隆弘氏のほか、複数の市場関係者に話を聞いた。

推定買収額3000億円は「決して高くない」

 西友株売却の報道を受け、売却額や買収先についてさまざまな憶測が飛び交う中、UBS証券では西友の買収額を「3000億円規模」と推定可能としている。

 西友の残存店舗網(北海道と九州を除く)から推計される売上高(約5500億円)と営業利益(220億円)から、EBITDA(利払い・税引き・償却前利益)を約280億円程度と試算。仮に評価倍率10倍超とすれば3000億円規模となる。

 なお、今回売却対象となる店舗数に、イズミ(広島県/山西泰明社長)とイオン北海道(北海道/青柳英樹社長)に売却した際の店舗あたりの売却金額をかけると約3000億円規模と試算できる。

西友外観
買収した企業は西友が持つ首都圏の強固な店舗網を得ることになる

 「3000億円」という金額はやや高額にも感じられるが、UBS証券でシニアアナリスト/コンシューマー・セクター ジャパン・ヘッドを務める風早隆弘氏は「首都圏を中心とする店舗ネットワークをイチから構築することを考えると、価値を見出せるシナリオはある」と指摘、買収側にとっては魅力的な案件だと言える。

 そのほかの市場関係者も、「プレミアムがどこまで上乗せされるかだが、最終的には3000億円に近づく可能性が高い」との見解を示す。

 現在、買い手として有力視されている小売業は、イオン(千葉県/吉田昭夫社長)、パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(東京都/吉田直樹社長:以下、PPIH)、トライアルホールディングス(福岡県/亀田晃一社長:以下、トライアル)の3社。各社のねらいはどこにあるのだろうか。

 郊外大型店を強みとするイオンは、過去にダイエー(東京都/西峠泰男社長)を傘下に収めたことで都市部にも一定の基盤を築いた。西友買収が実現すれば、首都圏の店舗網を獲得できる。

 ただし、「ダイエーと西友は、それぞれ1970~80年代に人口急増地帯に出店してきた背景があり、立地が似てしまうリスクがある」(前出の市場関係者)との見方もある。

 加えてイオングループのユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングス(東京都/藤田元宏社長)も都内だけで236店舗(2024年11月末時点)あるため、グループ内競合する中で店舗の価値をいかに高められるかが問われそうだ。

 PPIHは、過去にユニー(愛知県/榊原健社長)を買収し、成功事例を築いている。風早氏は、「業界再編で行ったことを首都圏で再現しようというねらいか。既存店と西友は、都道府県単位では重なる部分はあるが、商圏ごとでみれば重複は少なく、業態も異なっている。面白い展開になりそうだ」と評価する。

 一方で、ほかの市場関係者からは、「PPIHがユニー買収で成功した大きな要因は、改正大店法施行後に開店した優良店舗を大量に取得できたことにある。西友は旧大店法時代の店舗も多く、前回のようなメリットを享受できるとは限らない」(市場関係者)と懐疑的な見方もある。

 最後に、トライアルはほかの2社と比較して大型M&Aの経験が乏しい。しかしながら、市場関係者は「イオンもPPIHも買収メリットを単純に評価しづらい中、トライアルは、ロット(※ここでは店舗数のこと)獲得という小売買収のメリットをフルに享受できる唯一の企業かもしれない」と分析する。

西友買収の影響甚大?この先の小売再編は

 メーカーや卸などサプライチェーンへの影響はどうか。市場関係者は、「当然あるだろう」と断言する。西友の規模を考慮すると、とくに中小メーカー・卸にとっては、取引基盤が急激に変わることへのリスクが大きい。

 売却先によっては、支払い条件が厳格化され、取引の継続が難しくなる取引先も出てくると予想される。

 過去には、大型M&Aを機に生鮮の取引先が再編され、同エリア内の競合がより新鮮な商品を仕入れられるようになった事例もあるという。

 ただ、仮にイオンが西友を獲得し、「トップバリュ」ブランドを展開する店がさらに増加すれば、商品面の同質化が進むことが懸念される。一方で、「ほかの小売業は差別化戦略を強化しやすくなる」(風早氏)という見方もできる。

 再編機運が高まるSMだが、今回の西友売却が一応の区切りとなるのだろうか。市場関係者は「(小売再編は)まだまだ続くだろう」と予想する。直近では、ヨーク・ホールディングス(東京都/石橋誠一郎社長)の争奪戦の行方が注目を集めている。

 風早氏は、「海外ファンドは、これまでも日本の小売企業への投資で成功してきた。今後もこの流れは続くだろう」と話す。

 小売企業にとっては油断のならない状況だが、風早氏が「再編による業界の新陳代謝が進むことで過当競争が緩和され、業界全体の収益性向上に寄与する」と指摘するように、マイナス面ばかりというわけでもなさそうだ。

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取材

小野 貴之 / ダイヤモンド・チェーンストアオンライン 副編集長

静岡県榛原郡吉田町出身。インターネット広告の営業、建設・土木系の業界紙記者などを経て、2016年1月にダイヤモンド・リテイルメディア(旧ダイヤモンド・フリードマン社)入社。「ダイヤモンド・チェーンストア」編集部に所属し、小売企業全般を取材。とくに興味がある分野は、EC、ネットスーパー、M&A、決算分析、ペイメント、SDGsなど。趣味は飲酒とSF小説、カメラ

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