メガトレンドが突きつける、小売業界「9つの未来課題」とは

文・解説:三山 功(PwCコンサルティング執行役員)、中野 翔太(PwCコンサルティングディレクター)

第1回では2024年の購買者像の理解をもとに、AIによる新たな購買行動モデルの変化と、その裏返しとなる小売業の対応を解説した。

今回はより大きな視野としてメガトレンド(気候変動など全世界規模で起こる不可逆な潮流)から、今後小売業界が直面し得る未来課題を整理したうえで、その解決の方向性の糸口を示し、変化に備える視点を提供していきたい。

小売の未来課題──商品仕入れ

 未来を予測するうえで重要なのは、各種業界の原理的な定義の「何が変化するか」に着目することだ。小売業の場合、商品を仕入れ、最終消費者に販売する事業者と定義できる。

 未来創造の専門家チームであるPwCコンサルティングの「Future Design Lab」は、この「商品仕入れ(品揃え)」「販売」「消費者」の3つの領域に関して、小売業界に起こる9つの未来課題を予測した。まずは「商品仕入れ(品揃え)」について見ていこう。

未来の服選び
予測される将来のメガトレンドは、小売業のビジネスモデルや買物行動において、根本から変革を迫る可能性が高い(imaginima/iStock)

❶食料・水の持続可能性危機

メガトレンド:気候変動/水資源制限/人口減少/農業の担い手不足

 食料自給率40%弱の日本において、世界レベルでの気温上昇や干ばつの影響による食料生産の季節・生産量の不安定化の影響は甚大だ。さらに、限りある水資源の問題がそれを加速させる。

 国内生産においては一次産業の担い手不足に人口減少が拍車をかけており、自給率が上がる見込みも低い。そのなか、輸入・国内生産ともに仕入れ価格が高騰し、従来どおりの品揃えをすることは難しくなる。

❷エネルギーコストのチルド・冷凍食品での価格転嫁

メガトレンド:脱炭素規制/再エネ電力義務化/冷凍設備の更新投資負担

 食料生産が不安定化するなかでは、賞味期限を延ばせるチルド・冷凍技術は、供給の不安定さを緩和する意味でも重要になる。

 しかしながら脱炭素規制・再エネ電力義務化による電力単価上昇と老朽冷凍機の入れ替え負担も重なり、そのコストを価格に転嫁せざるを得ない。そのため、仕入れ原価と店頭売価の値上がりが必然となる。

❸循環社会への対応負荷増大

メガトレンド:循環経済/廃棄量・環境負荷開示義務/リコマース市場拡大

 リユースや再生素材の義務化が進み、カテゴリー内に新品・中古品・再加工品が混在するようになる。それらは価格帯や見た目が似ていても原価や保証条件が異なるため、売場での説明や判断が複雑化する懸念がある。

 表示ルールや運用オペレーションを業界で整えなければ、スタッフ対応や返品リスクが増え、循環対応そのものが業務負荷に転化しかねない。

小売の未来課題──販売

次に、「販売」における未来変化と課題だ。

❶AI購買普及による販売チャネルの再整備

メガトレンド:AI代替購買/クイックコマース/体験型/ライブコマース

 第1回で紹介した購買行動を代替するAI活用が生活者に浸透した場合、小売業としてはAIが情報を取得し購買できる環境を整える必要がある。

 その場合、ダークストア化や体験価値に特化するなど従来の店舗のあり方を見直し、ECチャネルを強化して配送網・拠点網を整備する必要がある。当該設備投資の費用の価格転嫁、根本的な業務フローの見直しが迫られる。

❷配送インフラ格差による都市・地方での対応

メガトレンド:物流業界の人材不足/災害リスク/都市化・地方過疎化/高齢化

 ❶の影響を受け、都市部ではラストワンマイル技術の普及を生活者需要が後押しし、数時間単位の配送が常態化するかたちで技術などの整備が進むと考えられる。

 一方で

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