2024年の生活者の購買動向から分析する、小売業の「望ましい未来」とは

解説:中野 翔太(PwCコンサルティングディレクター)
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小売業の持続可能性が危ぶまれる時代に

 急速に進む国内市場の人口減少・少子高齢化、継続するインフレ……。小売業を取り巻く外部環境を積み上げていくと、厳しい将来予測のシナリオを描かざるを得ない。

 では、小売業の未来はすべてが悲観的なものになってしまうのか。本連載では、2024年の購買行動に見る生活者の実態をスタート地点に、小売業における「望ましい未来」を洞察し、そのための変革の方向性を考察・提言していく。

食品スーパー 青果売場 買い物 イメージ
「出発点」としての今日の購買行動を整理したうえで、喫緊の潮流である小売業へのAIの影響を論じていく(i-stock/Yagi-Studio)

 あらためて、国内の人口減少は深刻な状況だ。24年の人口動態統計速報では、72万人の出生数に対して161万人の死亡数となり、89万人*1の純減となっている。人口純減は19年から24年にかけて出生数0.96・死亡数1.03*2の成長率となっており、単純計算で純減者数は30年には137万人になると推計される。

 これを世帯平均人数から世帯数に直すと、63万世帯が日本から失われる計算となる。家計簿調査による食料支出*3を用いて試算した場合、7000億円近い消費額が単年で失われる計算となり、日本でトップ10に入る食品スーパー(SM)1社ぶんの売上に相当する国内消費が毎年失われていく。このほか、原価高騰(年+3.6%*4・人件費高騰(年+2.4%*5)と、小売業を取り巻く経営環境は、変革が迫られる局面を迎えている。

 しかし本連載では、「ホラーストーリー」のみを描くのではなく、日本の小売業界を持続可能にしていく「望ましい未来」を探っていきたい。

 ここで言う「望ましい未来」とは、過去からの延長線上のみではなく、有望な技術や生活者の変化の予兆を解釈したうえで、大きな変化を想定した「起こり得る未来」シナリオのうち、業界・事業者が「創りたい未来」を選んだものである。そのためのインプットとして、下記を組み合わせる。

①メガトレンド…気候変動など全世界単位で起こる不可逆な潮流

②ウィークシグナル…弱い予兆だが新たな変化の兆しとなる事象(例:スマートグラス)

③未来ペルソナ…現状の生活者に未来の予兆を組み合わせた未来の生活者像

 連載初回の今回は、「出発点」としての今日の購買行動を整理したうえで、喫緊の潮流である小売業へのAIの影響を論じていきたい。

24年の購買行動に見る、6つの生活者像

 PwCは日本の生活者5000名に対して購買行動調査(24年11月末実施*6)を行い、統計的に購買行動を6つに分類した。購買前の情報収集の仕方・購買のタイミング・主として購買する小売業態・ECの利用傾向・商品カテゴリー別の支出傾向・購買後の推奨行動の有無などの行動を変数としてクラスター分析を行っている(図表❶❷)。6つの分類は下記のとおりだ。

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