物言う株主時代に脚光!宅配以外もスゴい「生協」の事業モデルとは

阿部 幸治 (ダイヤモンド・チェーンストア編集長)
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生協と株式会社の決定的な違い

 生協法に縛られる生協は、県域をまたいでの事業が規制されている。必然的に生協に出資する人は、生協の事業に賛同した「地域に住む人」となる。つまり、生協に出資し、利用する組合員は「地域住民」であり「お客」であり「株主」でもあるのだ。

 また、生協における株主は、出資する組合員だが、どれだけ出資金を出そうが1人1票の議決権しか持たない。特定の大株主が存在しないため、誰か1人の意見が強く反映されることのない組織形態なのである。だから生協は、地域のためになること、地域住民が望むことを事業や活動として行う限り、株主である組合員から反対されることがないのである。

 株式会社、とくに上場企業であれば、収益性が低ければ株主から糾弾されるし、構造改革を迫られる。そのため、たとえその事業が有望で利用者にとってよいことであっても継続することは困難だ。

 しかし協同組合の場合、組合員の幸福に資することであれば、組織として拡大再生産できる利益(生協用語では剰余金と呼ぶ)を上げる限り、組合員は喜んで賛成する。とくに組合員の組織率が高まれば高まるほど、「組合員のニーズ=地域のニーズ」と一致するようになる。地域課題の解決を事業化することが、生協が支持される理由になり、その地域で生協の存在意義がより高まっていくのである。これこそが本当の意味での地域密着だ。

 「非営利の精神」を持つ生協は、実は資本コストも低い。上場企業の株主資本コストは、会社は返済する必要がない半面、株式が無価値になるリスクなど株主が負うリスクと期待がプレミアムとして上乗せされるため、負債調達コストよりもずっと高い。

 一方、生協の場合、出資者に対して当期剰余金(当期純利益のこと)から一部を出資配当のかたちで組合員に還元するものの、たとえばコープみらい(埼玉県/熊﨑伸理事長)の出資配当率は年0.3%、コープこうべ(兵庫県/岩山利久組合長理事)は年0.2%と低水準だ。しかもコープこうべの場合、23年度は出資金に振り替えるというかたちをとっている。なお日本生協連によれば、地域生協116生協の総額でこの1年で出資金を約110億円増やしている。

 ある生協の幹部は「総代会(一般企業の株主総会にあたる)で剰余金(利益)がどれだけ上振れしたかの話をしても組合員は喜ばない。そんなことよりも、われわれの活動でどれだけ社会貢献できたか、何人がわれわれの奨学金制度を使って学校に行けたかのほうに組合員は関心がある」と力説する。組合員は生協の精神に賛同して出資しているのであり、「配当目的」ではないのである(出資金が利殖目的にならないよう、生協法で出資配当率の上限が定められている)。

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記事執筆者

阿部 幸治 / ダイヤモンド・チェーンストア編集長

マーケティング会社で商品リニューアルプランを担当後、現ダイヤモンド・リテイルメディア入社。2011年よりダイヤモンド・ホームセンター編集長。18年よりダイヤモンド・チェーンストア編集長(現任)。19年よりダイヤモンド・チェーンストアオンライン編集長を兼務。マーケティング、海外情報、業態別の戦略等に精通。座右の銘は「初めて見た小売店は、取材依頼する」。マサチューセッツ州立大学経営管理修士(MBA)。趣味はNBA鑑賞と筋トレ

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