アインHD、フランフラン買収で変わる?株主総会の争点とは

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アインHDの強い成長志向と新しい成長の柱

 

 このようにアインHD現経営陣とオアシスとの間に一定の緊張関係があることを踏まえると、今回のフランフラン買収からは別の要素も見えてきます。

 そこでまずアインHDの財務状況を確認しておきましょう。

 まず指摘すべきは同社が積極的な成長志向であることです。

 過去10年間の年間成長率は売上高が+8.9%、EBITDA(利払い前・税引き前・減価償却前利益)が+8.1%、経常利益が+7.3%であり、この成長を出店による内部成長に加えて、継続的なM&Aを適切な規律のもと継続してきました。同社ののれんの金額は総資産の20%前後で過去7年間推移しています。

  もう一つ、主力のファーマシー事業を補完する第2の成長エンジンであるリテール事業が着実に成長し収益性も高まっていることです。この事業はコスメティックスを主体とした「アインズ&トルぺ」業態であり、2024年4月期の売上高は311億円(全社売上高の約8%)、セグメント利益31億円(同15%)、売上高セグメント利益率10.0%と2桁に乗りました。ファーマシー事業の売上高セグメント利益率は8%前後で推移しており、かりにのれんの償却費を除いても1桁台にとどまるため、このリテール事業はアインHDの将来像を決める重要な存在になってきました。

アインHDの課題は不十分な収益率、余剰が続く現預金

 しかし課題もあります。 

 まず収益性。同社の売上高EBITDA比率、および売上高経常利益率の過去5年平均はそれぞれ7.5%、5.0%であり、低位とは言えないものの十分高いとは言えません。

 次に資本効率。ROA(総資産当期純利益率)、ROE(自己資本当期純利益率)の過去5年平均はそれぞれ4.1%、7.3%です。2024年4月期のROEは8.7%になりましたが、上場企業の一つの目線であるROE8%を安定的に超えているとは言い切れません(ちなみに10年前は15%前後の水準にありました)。

  最後にネットキャッシュ。20244月期末の現預金から有利子負債を控除した同社のネットキャッシュはプラス416億円です。同社は長年ネットキャッシュを維持しており、近年は400-500億円の水準で推移しています。先に述べたように、M&Aを通じた成長戦略を実践してきたため、投資に消極的だったわけではありません。それでも現預金を使いきれずにいることは株主にとって不満のタネになります。

  ちなみに株式市場の評価は、予想PER20.5倍、PBR1.4倍であり市場平均並みといえます。しかしネットの有利子負債と株式を合算した企業価値が営業活動による現金創出力の指標のひとつであるEBITDAの何倍かを示すEV/Ebitda倍率は5倍程度と低位にあります。

 株主の思いを整理すると次の通りでしょうか。

  • 調剤事業は規制業種で超過利潤を過剰に期待すべきではないかもしれないが、そうしたなか同社はファーマシー事業の成長機会を着実に取り込み、かつこれを補完するリテール事業が規模と収益性を備えてきた。これは高評価に値する。
  • しかし、企業価値を高める余地がまだまだあるはずだ。薬局市場は未だ非寡占市場であり、今後の医療保険財政などを考えれば集約必須である。リテール事業もいまこそ成長にアクセルを踏むべき時期にある。ネットキャッシュをなるべく早期にフル活用して利益ある成長を追求し、ROEが高まる姿が見えれば、企業価値は自ずと高まるだろう。
  • もし同社の財務余力を成長加速につなげることができる新たな経営陣や企業が現れてくれたら、それはそれで御の字だ。

 今回オアシスはガバナンス強化と取締役選任を株主提案に据えてきましたが、株主と経営陣との本質的な論点は、営業キャッシュフローをどこまで投資キャッシュフローに充当できるのか、さらにネットキャッシュを早期に有効活用できるのか、にあると筆者は考えます。

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記事執筆者

都市銀行で証券運用・融資に従事したのち、米系資産運用会社の調査部で日本企業の投資調査を行う(担当業界は中小型株全般、ヘルスケア、保険、通信、インターネットなど)。

米系証券会社のリスク管理部門(株式・クレジット等)を経て、独立系投資調査会社に所属し小売セクターを中心にアナリスト業務に携わっていた。シカゴ大学MBA、CFA日本証券アナリスト協会検定会員。マサチューセッツ州立大学MBA講師

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