アパレル業界が低賃金の理由と「年収大幅アップ=人員大幅削減」を防ぐ方法
「ハウスマヌカン」という言葉を知っているだろうか。知っている人は、バブル経済を経験した人だろう。店で販売している洋服を着ている店員、つまりアパレルの販売員の名称だが、この「ハウスマヌカン」は当時の花形職業で、流行の最先端を行く「特権階級」とも言える存在だった(ちなみに男性店員のことはハウスマヌカン・オムと言っていたらしい)。
当然、他人のファッションを見る目も肥えていて厳しい。DCブーム広がる中、「ハウスマヌカン」達は10万円以上もするスーツを身にまとい田舎からでてきた私が客として店に入っても挨拶もせず、「ダサい奴だ」ぐらいの目で私を見ていたのを思い出す。当時誰もが、「ハウスマヌカン」は1000万円以上の年収があり、常に最新のファッションを身にまとい、当時流行っていたカフェ・バーでスコッチのロックをくゆらしているのだと思っていた。
こんな統計がある。2022年のアパレル販売員の平均年収は346万円で、店長が404万円だった(クリーデンスが調査した「ファッション業界 職種別平均年収2022年度版」より)。国税庁の調査によれば、日本人全体の平均年収が461万円なので、かつての「ハウスマヌカン」は名前を変え、「ショップ店員」となり、収入は日本人の平均以下ということになる。
今日は、このアパレル産業の低収入問題について論じてみたい。
アパレル販売員は いまも人気職種
アパレル産業はかなり特殊な産業である。人間に必要な衣食住の「衣」にあたるが、単に防寒などを目的とするならユニフォームのようなものが数着あればよい。だが、女性がいる家ならお分かりだろうが、クローゼットはみなパンパンに膨れ上がっているなど、「嗜好品」という面もある。
そして、現在の人不足の中、アパレルの販売員が不人気職種かというとそんなことはない。大学生のアルバイトの人気ランキングを見ると、女性は「アパレルの販売員」が圧倒的に人気だし、友人のファンド・マネージャーもアパレル企業への投資を狙っている。しかし、ファーストリテイリングのように店長が数千万円の年収を稼ぐようなことはない。高年収が欲しい人たち、繊維・アパレルをやっている商社へ転職するか、PEファンドに入ってアパレルを買収し経営者として経営に参加する道を選ぶ。
こうしたことから、アパレル業界の年収の低さはこの業界の競争力を失うという意味で、相当大きな問題だと私は思っている。最近では、M&Aで経営者がアパレル業界以外からやってくることもある。しかし、「単に服を売る小売だろう」と安直に考えているから痛い目に遭っている。
アパレル業界には様々な特徴がある。例えば私が前の論考に書いたように損益分岐点を上げても上代(小売価格)は半分も下げられることなどだ。私は、アパレルビジネスを理解していたい人のために処女作「ブランドで競争する技術」(ダイヤモンド社)を書いたし、私の会社FRI & companyのFRIは、もともとFashion Research and Instituteの略なのである。そこには、ファッションとは科学で解明できるものであり、人の感性を主軸に一発当てているようなビジネスモデルは長続きしない、という私のポリシーに似た思いも込められている。
余談ながら、私は繊維にもアパレルにも一切の興味がなかった。単に、海外に行きたいという理由だけで商社を選び、その商社の一番主要な「海外営業部」が旧安宅産業の繊維部隊が前身だったため、繊維・アパレルに身を投じたのである。しかし、興味がないからこそ、この業界を客観的に見れたし、私に合っている業界だと今では思っている。なにせ、大学生時代、大阪のディスコに男女10人ぐらいででかけたとき、私だけが「服がダサい」ということで、中に入れてもらえなかった屈辱的な経験を持っているぐらいだ。
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