ユニクロの新ライン、「ユニクロ:C」が天下統一ブランドとなる理由
ユニクロ:Cは全方位戦略の一貫
私が30代のころだった。それこそ、ユニクロが大躍進を遂げ日本でモンスター企業への道を歩んでいたとき、当時のクライアントだった商社の役員が「先日、柳井(正)さんと偶然お寿司屋さんで会った。彼(柳井氏)は、全財産をなげうってでも欲しいのがブランドだと言っていた」という記憶が頭から離れない。確かに、その後、UAEのファンドと米国高級百貨店バーニーズの取得を巡って争ったことも記憶に新しい。
また、柳井氏の発言を必死に追いかけていたコンサル新人時代、私は、「ユニクロはハーベスト戦略で圧勝した後値段を一気に上げる」と主張した上司と徹底討議をしたこともある。彼は、実務経験がない人間で教科書通りにしかものごとを判断しない。だから、セオリーは圧倒的なフリーキャッシュを持つ大企業はあえてダンピングに近い価格を提示して競合相手を叩き潰し、競合がいなくなった後に価格を一気にあげて「負け損を回収する」というのだ。
柳井氏の発言を隅から隅まで読めば、彼がそんな些末な戦略などするはずはないことはあきらかで、私は、柳井氏は日本など見ておらず、世界の常識や人のニーズという本質的なところに極めて解像度の高い将来像をもっていた、と考えディベートをした(一昨年の値上げは円安やエネルギー安によるもので、古くなった教科書に書いているハーベスト戦略ではない)。柳井氏の根底にあるのは、インタンジブルなもの、世界観、哲学など、ユニクロをユニクロたらしめているヴィジョンのようなものだと分かる。私がこの問題に本気で取り組み、書いたのが初版「ブランドで競争する技術」(ダイヤモンド社刊)である。柳井氏は最初から世界をみていたのだ。
その後、ファーストリテイリングはキッズ、ホームウエア、ランジェリー、など繊維という繊維製品に商品、業態を広げていった。私は、ファーストリテイリングが転換期を迎えたのは、関西のおばちゃんがレジで値切るCM (覚えているだろうか)と決別し、「ユニばれ」(もはや死語だが)から世界に誇るヒートテックの開発など世界ブランドになったころからだと思う。芸能人も、一般人も同列に並べてディスプレイを飾り、バブル崩壊後のデフレ環境にうまく乗ったというのもあるかもしれないが、「世界化」と「脱下着屋」を果たしたころからだったように思う。
ユニクロがカシミヤに手を出した理由を考える
私は、商社マン時代から「ユニクロはカシミヤをやるべきだ」と思っていた。理由は至ってシンプルで、当時のユニクロの破壊的価格は、上記のような些末な「戦略」ではなく、徹底して無駄を省いたバリューチェーン(価値の連鎖)にあることを分かっていたからだ。ダイレクトにカシミアの原毛を買い、ユニクロのサプライチェーン(ものの流れ)を流せばよかったのである。だが当時、私はそれを語れるだけの言葉を持っていなかった。
だから、商社のOEMでアパレル企業からは、冬はカシミア混かカシミアばかりを頼まれた。理由を聞くと、「ユニクロは確かに強い。しかし、あれじゃ、カシミヤは売れない。河合さん、君は吉牛(吉野家)で会席料理を食べるか?」だった。つまり、ユニクロにはカシミヤを売りこなすことはできないだろうから、差別化策という意味でも各社はこぞってカシミヤを強化していたというわけだ。
しかし、柳井氏は「なんの根拠もない古くさい教科書」など気にしているとは思えない。だから、もし本当に「カシミヤ」がユニクロキラーなら、そして、柳井氏のビジョンが氏の哲学であれば、カシミヤをユニクロ流にすればよいと考えたのだ。そしてそれは程なくして実現され、ユニクロの冬を代表するアイテムの1つに成長している。
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