コツはデジタルサイネージから始めないこと!?成功するリテールメディアの手順とは

阿部 幸治 (ダイヤモンド・チェーンストア編集長)
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リテールメディア、何から始めるべきか?

 では、どのようにリテールメディアと向き合い、スタートすれば良いのか?

 ポイントは、最初から大掛かりな投資をせずに「スモールスタート」とすること。そしてメディア要件である「そこに人が集まること」という条件をクリアする筋道を考え、リテールメディア戦略を明確化することだ。

 その意味で、始めやすいのが「自社アプリ」だ。食品スーパーをはじめ、日本の小売企業は顧客接点の獲得、CRM(顧客関係管理)の構築を目的に、自社アプリを開発している企業が多い。また、食品スーパーのアプリはチラシ機能があるため、お客が店頭にいない時間帯でも割とみられている。

 「人が集まるというメディア要件を満たしている自社アプリであれば、必要なソフトウェアや顧客データを収集・管理する基盤などを導入することでリテールメディア化が可能だ。持続可能なビジネスにするうえでは、自社アプリのリテールメディア化から始める方が投資効率がよく望ましいのでは」と徳久氏は説明する。

 アプリが有望な理由は、リアル店舗小売業が「広告配信許諾の取れたID」(いわゆる広告ID)を獲得しやすい媒体だからだ。この広告IDが集まれば、それを使ってYoutubeなど外部への広告配信も可能になる。

 アプリを最優先としながら、「リテールメディアの売上を大きくするには、ECもきちんと立ち上げる必要がある」と語るのはPwCコンサルティング・マネージングディレクターの矢矧晴彦氏だ。 「ウォルマートのリテールメディアの売上・利益が大きいのはECがあるから。食品スーパー企業の場合はネットスーパーになるが、この場合販売と直結するのでメーカーとしても広告を出稿しやすい」と語る。

リテールメディアを始めると、顧客理解が深まる理由

bsd555/istock
bsd555/istock

 ただし、リテールメディアを始めるうえでは、「データに裏打ちされた顧客理解ができること」が大前提となる。そのためには自社が保有する顧客データを収集・統合するためのCDP(カスタマー・データ・プラットフォーム)と呼ばれるデータ基盤が必要になる。逆に言えば、リテールメディアを始めるうえでCDPは必須の投資になるので、「リテールメディアを始めると、もれなく自社の顧客を正しく理解できるようになる。それを店頭での施策にも生かせるため、本業での打ち手の精度も増す」と捉えるとよいだろう。

 もう1つ、ぜひとも知っておきたいのが、投資に対して得られるキャッシュフローの考え方が、店舗とは異なる点だ。

 リアル店舗であれば、投資額に対して、初年度からある程度期待通りの売上高をあげることができる。つまり、「計算が立つ」わけだ。

 しかしリテールメディアの場合、仮に1億円を投資したとして、初年度に得られる売上は極端な話たったの500万円かもしれない。ここにリテールメディア事業に関わる人件費や各種経費がかかってくるから当然大赤字になる。経営者が店舗の投資回収と同じように考えていたら「永遠に投資回収できないぞ。どうなっているんだ、もうやめだ」と撤退を決めてしまうかもしれない。顧客の嗜好や購買履歴と結びついた高い広告価値が醸成されることで、3年目から2000万円の事業利益が稼げていたかもしれないのに、だ。

 このように、リテールメディアを始めるためには、リテールメディア事業の構造を正しく理解すること、そのうえで、リテールメディア戦略の全体像を立案し、適切な投資を行うことが重要だといえるだろう。

 矢矧氏は「専任者をつけて外部の力も借りながら、経営者を巻き込んでいく。流行っているからといって見切り発車せずに、用意周到に行えば、明るい未来を作ることが可能」と力説する。

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記事執筆者

阿部 幸治 / ダイヤモンド・チェーンストア編集長

マーケティング会社で商品リニューアルプランを担当後、現ダイヤモンド・リテイルメディア入社。2011年よりダイヤモンド・ホームセンター編集長。18年よりダイヤモンド・チェーンストア編集長(現任)。19年よりダイヤモンド・チェーンストアオンライン編集長を兼務。マーケティング、海外情報、業態別の戦略等に精通。座右の銘は「初めて見た小売店は、取材依頼する」。マサチューセッツ州立大学経営管理修士(MBA)。趣味はNBA鑑賞と筋トレ

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