2023年のアパレル大予測 外資による買収加速・DX失敗・中国企業に完敗、が起こる理由

河合 拓 (株式会社FRI & Company ltd..代表)
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勝ち戦を阻害する23年の現実シナリオ

シーインをはじめとする中国企業が、先進的なテクノロジーを活用し、日本企業の度肝を抜くことになるだろう
シーインをはじめとする中国企業が、先進的なテクノロジーを活用し、日本企業の度肝を抜くことになるだろう

 しかし、23年のこうした勝ち戦を阻害するものがいくつかある。

 一つは「老害」による「バブル時代への執拗なまでの固執」だ。

 アパレルに生息する「老害」は、デタラメなKPIをいまでも使い、変えようとしない。自分の派閥をつくり報復人事を乱発する。商社の「老害」はOEMに固執し、商社のビジネスモデルを変えようとしない。というより、その不勉強から変え方が分からないのだ。

 その結果、アパレルは進む円安と人口減少、SDGs対応によって赤字続きとなり、幾度もリストラを繰り返す。トップラインの落ち込みが治っていないにもかかわらず、リストラ黒字で再建したとうそぶく人もでる出てきたほどだ。

 こうした「老害」の結果、アパレル産業の基本的な「負け構造」、つまり、進まない世界化とDX、商社や企画会社をいれた異常に長く複雑なサプライチェーンによって、この5年でジワジワと赤字が膨らむだろう。そして、正確に世界の潮流を読めるアパレル企業との差が開き、「生き残るアパレルと死ぬアパレル」がさらに明確になり、多くのアパレルの事業価値が下がってゆく。

  こうして、「死にかけたアパレル」は外資ファンドに買収され、日本買いがどんどん進んでゆくだろう。日本にPLMを入れられる企業など商社もいれて20社もないのだから、混乱を極めたPLMによるエコシステムは失敗に終わる。

 また、ROIがそもそも成立しない(=投資に見合わない)ことがわかりPLMベンダーは日本から徹底する可能性もある。私はいっそのこと国がPLMを管理し、「資本金1億円以下のアパレル、商社は自由に使って下さい」と、コード標準化委員会に統一プロトコルを作らせ、参入条件にすればよいと思う。さらに、本来、AIを正しく使えば非常に有効なMDの余剰在庫最小化ツールができるのだが「AIでは需要予測は無理」という短絡的なムードから、MD改革も遅れることになってしまう。

  結局、進化していくのはライブコマースやリッチコンテンツによるECの高度化だけだ。

 しかし、こうした技術も、“3周”先を走る中国企業の前には無力だ。彼らはAR (拡張現実)によるバーチャル試着やスマホやタブレットを利用した採寸技術と組み合わせ、地方都市の過疎化しつつある町で無店舗販売を行い、日本のアパレルはまた度肝を抜かれることになるだろう。

勝ち筋が見えているのに「大人の事情」が邪魔をする

百貨店はさらにその数を減らすことになりそうだ(kitzcorner/istock)
百貨店はさらにその数を減らすことになりそうだ(kitzcorner/istock)

  このように、23年は勝ち筋が見えているにもかかわらず、「大人の事情」で、企画、生産、流通という重要な部分のDXは失敗を繰り返し、販売領域のみ進化してゆくという結果となる

 また、多くのアパレル企業は外資企業か、ファンドに買収され、ロールアップ(小さい企業を束ねて大きくする)するか、世界化、あるいはDXを外圧で実行させられることとなる。

 そして、いきなり出現する中国の怪物デジタル企業に対し、経営陣を総入れ替えし、業界外のプロ経営者が経営の舵取りをするアパレルが、戦いを挑むことになるだろう。

 百貨店は、地方はゴーグルをつかったバーチャル店舗、中間地点はデベロッパーとなり、元の百貨店業務は一等地だけになり、大きく数が減少する。インバウンド需要も、中国のゼロコロナ対策によって遅れ、思ったほど成長の果実を味わえるわけではないだろう。

 商社は、総合商社は伊藤忠商事一強で、あとは丸紅が少量を受け持つ。残りは、専門商社が細々とOEMを続けるが、先進的専門商社はOEMから脱退し、ブランド開発やアパレルへのファイナンス、世界化の手伝いをしながら何が商社の生き残りのための業務かをあれこれトライすることになる。

 以上が私が描く、2023年の「楽観シナリオ」と「現実シナリオ」だ。このどちらかに揺れながら、この一年が過ぎてゆくことになるだろう。

 

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プロフィール

河合 拓(経営コンサルタント)

ビジネスモデル改革、ブランド再生、DXなどから企業買収、政府への産業政策提言などアジアと日本で幅広く活躍。Arthur D Little, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナーなど、世界企業のマネジメントを歴任。2020年に独立。 現在は、プライベート・エクイティファンド The Longreach groupのマネジメント・アドバイザ、IFIビジネススクールの講師を務める。大手通販 (株)スクロール(東証一部上場)の社外取締役 (2016年5月まで)
デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言
筆者へのコンタクト
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記事執筆者

河合 拓 / 株式会社FRI & Company ltd.. 代表

株式会社FRI & Company ltd..代表 Arthur D Little Japan, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナー等、世界企業のマネジメントを歴任。大手通販 (株)スクロール(東証一部上場)の社外取締役 (2016年5月まで)。The longreachgroup(投資ファンド)のマネジメントアドバイザを経て、最近はスタートアップ企業のIPO支援、DX戦略などアパレル産業以外に業務は拡大。会社のヴィジョンは小さな総合病院

著作:アパレル三部作「ブランドで競争する技術」「生き残るアパレル死ぬアパレル」「知らなきゃいけないアパレルの話」。メディア出演:「クローズアップ現代」「ABEMA TV」「海外向け衛星放送Bizbuzz Japan」「テレビ広島」「NHKニュース」。経済産業省有識者会議に出席し産業政策を提言。デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言

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