コスモス、アオキが本腰、スーパーのオーケーも開始!「調剤」争奪戦のゆくえ
食品小売の調剤参入は賛否両論渦巻く
ただ、調剤争奪戦において、SMをはじめとする食品小売がアドバンテージをとれる部分は今のところ少ない。食品小売にとって調剤はまったく別の領域のビジネスであり、一朝一夕で軌道に乗せられるものではないからだ。
まず課題として直面するのが、薬剤師など専門人材の採用だろう。前述のとおり足元の採用環境はある程度安定しているものの、少子化の動きも考量すると、中長期的には楽観視できない状況だ。調剤ビジネスについて詳しい船井総合研究所の清水洋一氏は「薬学部を擁する大学の数によって左右されるところもあり、すでに今でも地方部では新卒採用が厳しくなっているエリアもある」と言う。
また、食品小売の場合は薬剤師だけでなく、薬局経営に知見を持つ人材を獲得することも必須となる。前述のとおり薬価改定や調剤報酬改定が高頻度に行われることで経営上難しいかじ取りを迫られる場面も少なくないからだ。このほかにも設備や在庫管理、オペレーションの確立のためには少なくない投資が求められる。
このようにクリアすべき障壁が多いこともあり、食品小売業が調剤ビジネスに乗り出すことには賛否両論が渦巻く。本特集に際してSM各社に行ったアンケート調査でも、「顧客利便性の向上」「地域インフラとして必要」という声がありつつも、直営するとなると「投資対効果が期待できない」「調剤報酬改定で中長期的な収益維持は難しい」といった否定的なコメントも多く寄せられた。
ちなみに数は限られるが、オーケーに先行して調剤事業に参入している食品小売業は存在する。たとえばベイシア(群馬県/橋本浩英社長)や東急ストア(東京都/須田清社長)、オークワ(和歌山県/大桑弘嗣社長)がごく一部の店舗で直営の調剤薬局を導入。しかしいずれも事業としての規模は小さく、積極的な拡大策もとっていないのが現状だ。
また、ヤオコー(埼玉県/川野澄人社長)はかつて子会社の日本アポックを通じて調剤薬局事業を運営していたが、15年に同社の一部株式を医薬品卸大手のアルフレッサホールディングス(東京都/荒川隆治社長)に譲渡し、薬局経営からは事実上撤退。本業のSM事業に経営リソースを集中させるための判断であった。
このように、食品小売による調剤ビジネス参入は過去にもいくつか例があるものの、成功例といえるような事例には乏しい。
デジタル活用&サービスへの投資では食品小売は優位か
ただ、その流れで注目したいのが、調剤ビジネスに関して業務効率や顧客体験を劇的に向上させるデジタルツールやサービスが拡大し始めていることだ。
たとえば、これまで薬剤師の勘と経験に依存していた発注業務を、AIによる需要予測などによって適正化・効率化させたり、患者への服薬指導と同時に薬歴の下書きを完成させられるツールが登場している。また、利用者向けにはオンラインでの診療や服薬指導の拡大、バイク便などの物流インフラを活用した処方薬の宅配サービス、ドライブスルー薬局なども一部の調剤チェーンやDgSで始まっている。
こうしたデジタル活用やサービス向上の取り組みは、それらへのリテラシーが高く投資余力も持つ小売企業は導入しやすい。とくに後者の宅配やドライブスルーといった受け取り方法の多様化については、一部の食品小売は既存のインフラをそのまま活用することができるだろう。
いずれにしても、食品小売のような新規参入組にとっては、デジタル領域やサービス向上の取り組みにある程度の投資を行うことで参入ハードルが下がるほか、事業として成立させるために欠かせない「集客」の面で優位に立てるチャンスを得られるかもしれない。
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