ウィズコロナ時代のショッピングセンター経営32 SCが差別化を狙ってはいけない理由
差別化は結果 顧客は差別化を望んでいるのではない
このように差別化戦略とは、顧客が認めて初めて意味をなす。その証拠にSC運営においてお客様アンケートで「差別化してほしい」というコメントを回答欄に顧客が記入してきたことを見たことがあるだろうか。少なくとも私は無い。なぜ顧客が望んでもいない差別化を事業者は追い求めるのか。不思議でならない。
例えば、顧客から「美味しいベーカリーのお店が欲しい」という意見からベーカリーテナントの誘致、もしくは新たな品揃えで美味しいベーカリーを実現したところ顧客から支持を得たとする。それが競合には無かった要素だったとすればこれが立派な差別化となる。要するに差別化は結果であり目的では無いのだ。
ただ、差別化を狙うことで新たなイノベーションが起こることもある。これは否定しない。色々なチャレンジをすることも大切だし、時にはプロダクトアウトの取り組みも仕事をする上ではやりがいや楽しさにもなる。これも是だろう。
ただ、顧客の望むことと差別化は必ずしも一致するわけでは無いことを肝に銘じるべきなのだ。
差別化を“目的”にすると何が起こるか。周囲の競合と差別化を意識するがあまり、顧客ニーズから遠のいた上、顧客の支持を受けずに閉店や全面改装に追い込まれた商業施設を見たことがあることだろう(自らの体験として持つ人も多いと思う)。
差別化戦略を採用する際は、頭の片隅に「これは顧客が望むことだろうか」という気持ちを持つことが本当の商業施設のプロである。ポストコロナ、やみくもに差別化を目的とした開発を行わないようにしたい。
西山貴仁
株式会社SC&パートナーズ 代表取締役
東京急行電鉄(株)に入社後、土地区画整理事業や街づくり、商業施設の開発、運営、リニューアルを手掛ける。2012年(株)東急モールズデベロップメント常務執行役員。2015年11月独立。現在は、SC企業人材研修、企業インナーブランディング、経営計画策定、百貨店SC化プロジェクト、テナントの出店戦略策定など幅広く活動している。岡山理科大学非常勤講師、小田原市商業戦略推進アドバイザー、SC経営士、宅地建物取引士、(一社)日本SC協会会員、青山学院大学経済学部卒
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