ヤマダホールディングス、最盛期に迫る利益水準なのに株価低迷の理由と復活のシナリオ

2021/07/07 05:55
    椎名則夫(アナリスト)
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    それでも株価が低迷する理由

     しかし株価の反応はまずまずといったところで、正直物足りなさも感じます。

     さきほど述べた、経常利益がピークであった20103月期から20123月期の株価は大まかにいって450円から750円の間にありました。本稿執筆時点(7月5日終値ベース)の株価は512円。過去一年間での高値は625円ですので、利益の回復具合に相応しい株価であると思います。

     しかし、久々に利益額が回復し、経営の方向づけもかたまりつつあるなか、株価の反応が冷静すぎる気がしないでもありません。

     また、ROE(自己資本当期純利益率)がひさびさに8%台に復帰したにもかかわらず、PBR(株価÷一株あたり純資産)が0.65倍となっており、いわゆる解散価値を下回っていることが気になります。

     この株価動向の背景は何でしょうか。

     最もシンプルな理由は、20213月期の業績はコロナ禍におけるステイホーム・リモートワークおよび一時金による一過性の需要に支えられており、持続性がないのではないかという疑念によるものでしょう。

     さきほど2010年代が「模索の10年」となった要因を列挙しましたが、足元の状況にデジャブを感じる投資家が少なからず居そうです。

     実は同社は20223月期通期の業績予想について売上高・営業利益・経常利益が微減、当期純利益が横ばいという計画を提示しています。細かくみると、年度上半期は経常減益、下半期は増益となっています。

     しかし、資本市場の予想のコンセンサスは10%台半ばの減益を予想しています。これは資本市場は下期の増益を信じていないことを示します。

     当座はこの資本市場の疑念を払拭できるのかがポイントになります。

     これに加えて、資本市場はその翌年の業績にも懐疑的です。

     20233月期の資本市場の業績予想コンセンサスは、売上高・利益のいずれもが前年度比で微増程度となっています。

     これでは株価の評価は高まりません。

     一方、同社は今後、

    - 既存店舗では、適宜業態を適地化させる
    - 2021年下期より「暮らしまるごと」コンセプトの新規出店を年間30店舗のペースで推進する
    - この結果、毎期+5%増収をめざす

    という成長戦略を描いています。

     こうした店舗戦略、とりわけ新しい店舗フォーマットの収益ポテンシャルをいつ明示できるのかが、非常に重要なポイントになると思います。

    この先に、リカーリング(循環型)ビジネスを見据えているのか否か

     筆者なりに整理してみると、ヤマダホールディングスは少子高齢化・EC台頭という潮流のなかで、家電最大手として店舗ネットワークの強みを最大化するために、非家電の品揃え・SPA化・リユース等の提供・付帯金融サービスの用意という品揃えとサービスの強化を進めており、いよいよグループ全体で攻める体制が整ったという段階にあります。

     しかし残念ながら資本市場はまだ懐疑的で、それだけにこの戦略の成否には注目度が高まります。

     そして、さらにもう一段先のステップとして期待したいのは顧客とのリカーリング(循環型)ビジネスの強化です。

     顧客接点が店舗(およぼ同社ECサイト)であることは良いのですが、できれば、継続的に顧客とお金の接点が欲しいところ。たとえば、

    - 家電・家具などのサブスクリプション(リース)
    - 電気自動車と発電・蓄電システムのリース(およびカーシェアリング)

    - 中小事業者に”オフィスまるごと”展開しリカーリング収益を獲得

    などの新しい施策が積み重なる展開を妄想したくなります。

     繰り返しになりますが、現在の株価は解散価値を下回っています。その場合、アクティビストの関与が強まり、資本効率の改善を迫られ、投資機会が十分にない場合は株主還元に迫られたり、経営陣の交代を求められることはますます日常化しています。M&A(合併・買収)の標的になることも避けられません。

     同社はすでにアクティビストの存在を意識せざるを得ない舵取りの経験があり、企業価値の増大に向けて手ぬかりなく取り組む必要性をよく理解しているはずです。

     同社の攻めの打ち手が増えていくことに期待したいと思います。

     

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