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苦境の外食産業にコロナが課した3つの制約条件 コロナ後の明暗をわけるものは? 

コロナ禍で苦境に立たされる外食産業だが、コロナ禍で損なわれた外食の価値とはなんだったのだろうか。アフターコロナに向かう今こそ、コロナ禍で起こった変化を今一度よく振り返り、戦略を見直すときではないだろうか。今、世の中の変化をどのように受け止め、どう変化するかが今後の明暗を分ける。

i-stock/nazar_ab

 コロナ禍で損なわれた「体験」価値

 外食産業が世に提供している価値とは、大まかに言えば、「食」の提供、と「体験」の提供の組み合わせである。「食」価値の割合が高いファストフードもあれば、「体験」価値の比重が高いディナーレストランや居酒屋など、業態によって、価値訴求における食と体験の比重は異なっている。

 「食」としての価値は内食、中食でも提供可能であるが、飲食店という空間だからこそ生み出される「体験」は外食ならではの価値だといえる。しかしコロナ禍によって、この「体験」は封印されざるを得なくなってしまった。

 コロナ禍は、「体験」価値比重の高い業態にとくに甚大なダメージを与えているのは統計をみても明らかだ。コミュニケーション空間としての価値提供の度合いに応じて、居酒屋、ディナーレストラン、喫茶店の落ち込みが大きく、ファストフード、ファミリーレストランで比較的ダメージが小さいのはこの1点に尽きるといっていい。この意味で、ウィズコロナにおける業績のよしあしを、経営の巧拙に帰すのは酷なのかもしれない。

 ただし、コロナ禍が外食に対してどんな制約を課しているのか、その制約がどのような影響を及ぼしているのかをみると、外食産業の本源的な課題を浮き彫りにしている要因がいくつか見えてきた。本稿では、コロナ禍が外食に課している制約条件に関して、①時間制約、②キャパシティ制約、③立地制約、の3点を挙げて、その影響について考えてみたい。

 不稼働時間を活性化する

 まず「時間制約」だが、これはコロナの感染拡大を抑止するために国家や自治体等によって、休業指示や営業時間の制約が行われることを指している。営業時間短縮の影響を最も受けるのは、もともと営業時間が短い居酒屋やディナーレストランであることは間違いない。2度目の緊急事態宣言下で課された20時閉店という制約は、こうした業態にとっては休業指示にも等しく、大幅な減収を覚悟せざるを得なかった。ランチ営業をしていても、メーンである夜で稼ぐ業態であるため、こうした時間制約の影響は大きくならざるを得ない。こうした稼げる時間帯が集中していることによるリスクが今浮き彫りになったということなのであろう。

 居酒屋チェーンの鳥貴族が「トリキバーガー」事業を始め、チキンバーガーを中心とした昼の営業とデリバリーなどを実施する発表している。これが成功すれば、これまでの不稼働時間の活性化につながるものであり、アフターコロナでの収益向上策としても有効だ。コロナによる時間制約は、不稼働時間の見直しにつながる可能性を産み出すかもしれない。

売上を積み上げる方法を複数持つ

 次に、「キャパシティ制約」について考えてみる。飲食店にとっては、席数に応じて業態別に想定する売上水準があり、それをもとに店舗投資回収の計算ができる。しかし、コロナ禍では密を避け、ソーシャルディスタンスを確保するため、多くの飲食店はその席数を減らして営業せざるを得ない。そうなると店内提供だけではやっていけないので、テイクアウトや宅配を行うことになる。

 このテイクアウト等については、昼食時や夕食時のピーク時に席数を超える需要を満たすために、これまでも取り組んできた回転寿司チェーンなどの対応力が際立ってみえる。ご存知の通り、人気回転寿司、スシローやくら寿司では、コロナ前からピーク時の混雑緩和が大きな課題となっていた。そこで、ネット予約やテイクアウト対応などで、課題の改善に向けた努力を続けてきた。その結果、今回のコロナ禍でのテイクアウト対応、特定の時間帯への集中緩和などで大きな成果を挙げており、それが対前年同月比の月次売上に表れている。

 これらの事例が示すのは、店内の客席回転数・率向上にとどまらず、売上を引き上げるための不断の努力が重要であり、それはアフターコロナにも生きてくる、ということだ。席数は店のキャパシティとして超えられない限界ではあるが、売上を積み上げるためにできることの幅が、コロナによって拡大したと前向きに解釈すべきかもしれない。

立地リスクを分散する

 最後に「立地」制約について。これはリモートワークなどにより大都市オフィス街の昼間人口が減少により、都心立地、ビルイン立地などが売上不振に陥り、郊外回帰が起こっているという立地環境の変化を指している。また、ショッピングセンター(以下:SC)立地に関しても似たことが起こっている。SC全体の営業時間に左右されるため、夜型業態であるかどうかにかかわらず、SCの休業や時短の影響を受けてしまう、ということだ。

 都心部・SCが弱く郊外が強い、というコロナのもたらした影響は、牛丼チェーンでは都市型立地の吉野家、松屋より、郊外型のすき家が健闘、また、近年商業施設等のフードコートへの出店を進めてきたリンガーハット、SC内へのテナント出店に注力していた大戸屋の不振、などという結果を引き起こした。自社が強みを持つ立地への集中出店は有効な戦略であろうが、立地リスクの分散については再検討してみる必要があるかもしれない。

 いずれにしても、コロナ禍によるさまざまな影響は外食にとって一過性の事象が少なくない。コロナ終息まであらゆる手を使って、資金繰りを維持できさえすれば、それでウィズコロナ対応は完了だ。それよりも、コロナ対策を通じて、アフターコロナにも通じる普遍的な示唆を受けられるか否かが、本当の勝負になるのではないだろうか。