ファストリ過去最高益予想の裏で… 金融主導によるアパレル業界崩壊の真実

河合 拓 (株式会社FRI & Company ltd..代表)
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アパレル業界をねらう、三すくみ状態のリアル

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ジャブジャブに余っているリスク・マネーがカギ(bgkovak / istock)

 こうした中、アパレル業界は、1) 体力のある企業、2)今にも破裂しそうな風船のようになっている銀行、3)こうした状況を横目で見ながら、価値ある企業を安価で買おうと見ているリスクマネー(いわゆる商社投資部門やファンド)の、思惑と情報戦とが入り乱れた三すくみ状態にある。

 体力のある企業は、昔取った杵柄で、溜まったアセット(資産)を売却し、コロナ過を乗り切ろうとし、この状況の中でも投資を行っている。彼らは、アフターコロナで最速のスタートダッシュをするためだ。そのスタートダッシュは、二つのパターンがあり、一つは、異なる企業、異業種との連携による2階層プラットフォーム構築。そして、もう一つは、M&Aによる垂直統合である。こうしたダイナミックな構造改革も、本質的な課題を解決できるかどうかは疑問である。なぜなら、彼らは自らの高い固定費を削ろうとしないからだ。

 先日、世界的な投資の神様、パークシャー・ハサウェイのウォーレン・バフェット氏が日本の5代商社に60億ドル(日本円で、6300億円)を投資し、世界中を驚かせた。例えば総合商社の雄、三菱商事のPBR(株価純資産倍率、倍率が1を下回るほど割安)は0.6以下である。商社という業態は売上が全てだ。成長が止まった市場化において、このままでは商社の伝統的繊維事業は終わりを告げる可能性が高い。

 話を繊維業界に戻す。天下の三菱でさえそうなのだから、その数百分の1の売上規模しか持たない日本の繊維商社はどうなのかというと、資産リッチの一部商社を除き、多くが業績悪化し、アパレルやSPAリテーラーによる垂直統合戦略(アパレル企業の小売買収と商社買収)によるD2C (工場と顧客データをデジタル結合する流れ)ビジネスモデルから排除されようとしている。あるアパレルが、業績悪化にも関わらず、政府系ファンドと組んで次々と買収をしているのはこのためだ。作り場(生産工場)も顧客(ビッグデータ)も持たない中間流通はデジタル化の餌食となり市場から退出させられる。これからは、規模を追いかける時代でなく、付加価値の大きさでビジネスを拡大させる時代が来る。

 加えて、体力のないアパレル企業は、上記のような政府と金融機関の過剰救済措置により延命しているが、もはや融資も限界を超えており、例えば、債権をもっている企業の中で体力のある企業に頼み、自己資金による資金繰りが限界に達している企業の救済を半ば押しつけるような形で出資をさせる。今、不可解な出資が数多く起きているのはこうした背景が裏にある。これが、私がいう「金融主導の業界再編」だ。

日本のアパレル業界を救う唯一の道

 これに対し、商社、ファンドなどのリスクマネーは、冬のパンデミックを警戒し、企業のバリュエーション(企業価値評価)をつけられない。先日、ZOZO創業者の前澤氏がご自身の手金 80億円をアパレル企業2社に投資をしたのは記憶に新しいが、商社やファンドからしてみれば、アパレル企業は絶好の買い時なのだが、自己勘定投資(自己資金で投資を行うため長期的に企業改革を行える)を行うエンジェルやファンドは動き出す可能性もあるが、他人資本を運用するファンドは慎重になっている。

 なぜなら、前述のとおり、もし冬にパンデミックが再度発生し、ロックダウンがおきれば、算出したバリュエーションが狂い、彼らのエコノミクスが成立しなくなるからだ。したがって、インフルエンザなどが流行する11月から12月まで様子を見、コロナの猛威が拡大するのか、あるいは、ニューノーマルといわれる行動が、ウィルスを押さえるのか、はたまた、すでに200弱もの臨床試験段階にはいっているといわれるワクチンが世に出回るのかをみているわけだ。

 当然、コロナ過の状況が好転すれば、世界でだぶついているリスクマネーが一気に市場に向かい、銀行のデット(貸し出し)は保全され、正しく中長期的な経営をすることで産業界は正常化され、不可思議な動きを繰り返す株価は正常化され、借金まみれとなった日本の救世主となるだろう。これが、私が想定する好転のシナリオである。

 しかし、もし、単に債権とアセットの有無だけで事業シナジーもない企業への出資が強要的に行われればどうなるか。金は、「持つ者」から「持たざる者」へ流れ、死への片道切符をもった列車のスピードは遅くなるだけだろう。そして、業界は緩やかに死滅へと向かうだろう。なぜなら、そこには、事業という最も大事な競争力強化のための戦略がないからだ。かくいう私自身、自ら評論家の立ち位置と決別し、リスクをとって産業界の大きな山にタックルを繰り返している。

 私は、今年、世界的な金融機関に呼ばれ、海外の投資家に日本のアパレル業界の実態を説明し、最後に世界の投資家に救済を頼んだ。自分でも、なぜあのような発言をしたのか、今思い出しても不思議だ。しかし、その後、私の話が圧倒的に面白く説得力があったと言ってくれる投資家と何社も面談した。日本には、まだまだ消えてはならない技術やブランドがある。決して戦略無きマネーの食い物にされてはならない。私は、資本主義のメカニズムを信じているが、放置プレイは時に大事なものを破壊することがある。企業や組織、技術は一度無くなると二度と元に戻らない。100年に一度の危機といわれる今だからこそ、できるだけ多くの方が現状の正しい分析とリアルの理解が必要なのである。正しい分析と理解だけがこの日本のアパレル業界を救う唯一の道だと信じている。

 

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プロフィール

河合 拓(事業再生コンサルタント/ターンアラウンドマネージャー)

河合拓氏_プロフィールブランド再生、マーケティング戦略など実績多数。国内外のプライベートエクイティファンドに対しての投資アドバイザリ業務、事業評価(ビジネスデューディリジェンス)、事業提携交渉支援、M&A戦略、製品市場戦略など経験豊富。百貨店向けプライベートブランド開発では同社のPBを最高益につなげ、大手レストランチェーン、GMS再生などの実績も多数。東証一部上場企業の社外取締役(~2016年5月まで)

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記事執筆者

河合 拓 / 株式会社FRI & Company ltd.. 代表

株式会社FRI & Company ltd..代表 Arthur D Little Japan, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナー等、世界企業のマネジメントを歴任。大手通販 (株)スクロール(東証一部上場)の社外取締役 (2016年5月まで)。The longreachgroup(投資ファンド)のマネジメントアドバイザを経て、最近はスタートアップ企業のIPO支援、DX戦略などアパレル産業以外に業務は拡大。会社のヴィジョンは小さな総合病院

著作:アパレル三部作「ブランドで競争する技術」「生き残るアパレル死ぬアパレル」「知らなきゃいけないアパレルの話」。メディア出演:「クローズアップ現代」「ABEMA TV」「海外向け衛星放送Bizbuzz Japan」「テレビ広島」「NHKニュース」。経済産業省有識者会議に出席し産業政策を提言。デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言

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