ファストリ過去最高益予想の裏で… 金融主導によるアパレル業界崩壊の真実
アパレル1社平均売上は50億円
4、5月だけで1/6の売上が蒸発
さらに分析を進める。事業所数ベースでは、日本のアパレルの97%程度は中堅、零細企業で、その平均規模は50億円以下である。テレビで学者達が、「日本はデジタル化せよ」と言っているが、誰がその原資を出すのだろう。このレベルの売上企業が競争に勝てるに十分な「デジタル化」を推進できるはずがない。
計算すればわかるが、2020年4月と5月に店舗がロックダウンされ、平均すれば売上の1/6を失ったのが今のアパレル業界だ。ECだと騒いでいるのは学者や評論家だけで、日本のEC化率は、コロナ禍前で8%程度。つまり、ほとんどがリアル店舗なのである。今でこそ、日本の大手アパレルメーカーのEC化率は3-40%となっているが、それは「トータルの売上が劇的に下がった一方で、ECは巣ごもり消費で持ち直している」からだ。この状態を「神風」と考え、私の新書「生き残るアパレル、死ぬアパレル」を50冊まとめて購買し、浮かれる社員に配ると言ってくれた経営者がいた。同社の株価は最高を記録している。
50億円の企業が、1/6の売上を失ったらどうなるか。アパレル企業の50%は原価と、マークダウンロス、および、ライトオフの積算だ。今、アパレル企業のほとんどは、バランスシートに在庫を隠し、これを「流動資産」(1年以内に換金できる在庫)として、計上しているが、現実は、これらの多くが、1年どころか5年も眠っている状況である。つまり「資産」の実態は、不良在庫の山であり、適正な棚卸資産評価損を出さねばならないのだ。
先日、私は某企業主催で講演したのだが、登壇後、ある倉庫業者の経営者が、「河合さんの言うとおり。私たちの第三者倉庫の1階のフロアでは足りず、2階まで在庫が積まれ、中には、10年もののビンテージ在庫まで眠っている」といっていた。私自身も、YouTubeで浮かれた動画を配信しているあるブランドの第三者倉庫、いわゆ3PL 業者を見学させてもらい、余剰在庫がビルの2フロアを占拠している様をいて、背筋が凍り付いたことがある。
こうした状況から論理的に算出すれば、50億円の1/2を12ヶ月で割った2億円の現金を毎月失っているのが、日本に存在する1万7000社(統計上、1万7000社であるが、実際は2万社あるといわれている)の実情なのだ。
彼らの多くは既に資金繰りが立ちゆかなくなっている。そして、日本政府と金融機関のタッグマッチによる救済策と札束増産によって、ある企業は与信オーバーの借り入れ(銀行には、この企業であれば、貸してもリスクはすくないという上限枠があり、これを与信という)をし、リスケ(債務者が金融機関に支払いを延ばすこと)、そして、中には、ニッチもさっちもいかない企業には、債務圧縮(借入金の一部を棒引きすること)などを行い、死に体となっている会社を、生きながらえさせていた。
私は、何十年に一度のウイルス・パンデミックに国を挙げて救済措置をとることは大賛成で、むしろ、上記のような分析をすれば、救済支援策は足りないくらいだと思っている。問題は、この状況に便乗するかのように、コロナ禍以前にすでに死に体となっている企業も一緒くたに救済されている状況にある。