依然として外出控えムードが色濃い米国では、ネット通販(EC)の需要が拡大し続けている。実店舗があるという強みを生かしたリアル小売のEC事業が伸長する中、これまでECの主役だったEC専業プレイヤーのあいだで「ある動き」が見られている。
取材協力:高島勝秀(三井物産戦略研究所)
ECの「迅速性」を確保するには
コロナ禍による外出抑制でECの需要が急増する米国では、伸び率で言えば、EC専業以上にウォルマート(Walmart)やターゲット(Target)といった実店舗リテーラーのEC事業が急拡大している。
実店舗リテーラーのECは、店舗での受け渡しや、消費者の近くに立地する店舗からの配送によって、商品を迅速に届けることができる。コロナ禍では、こうした「迅速性」が消費者に評価されている。そして、その優位性は実店舗ならではと考えられていたが、EC専業のプレイヤーも実店舗リテーラーに倣うことで、同様の迅速性を獲得する試みを見せ始めている。
そうした中で焦点となっているのが、「ミドルマイル」の物流だ。
ミドルマイルとは、「物流センターから店舗などの中継点」への輸送を意味し、川上の長距離大型物流「ロングホール(long haul)」と、消費者向けの宅配「ラストマイル」の中間領域にあたる。物流センターから顧客までの物流を、店舗を結節点として「ミドル」と「ラスト」に分割することで、注文から配送までの迅速性を確保することができる。
三井物産戦略研究所の高島勝秀氏は「物流の点だけで言えば、この中継点は店舗である必要はなく、在庫を持ちフルフィルメント機能を担える拠点であればよい」と話す。
実際、米食品スーパー第2位のアルバートソンズ(Albertsons)は、EC事業拡充のため、店舗併設ではない“スタンドアローン”の「MFC(Micro Fulfillment Center:小型物流施設)」を設置する計画を発表している。
MFCには、2018年に提携した米物流システム開発企業テイクオフ・テクノロジーズ(Takeoff Technologies)の仕組みが導入され、自動化を進めることでのスピードアップやコスト削減を図る。ちなみに、アルバートソンズ傘下のセイフウェイ(Safeway)が、19年11~12月にサンノゼ、サンフランシスコにある実店舗2店舗で同じ仕組みを導入している。
アマゾンも配送拠点1000カ所設置へ
EC最大手のアマゾン(Amazon.com)も、物流の結節点として、消費者の近くに立地する小型の配送拠点を新たに1000カ所設置する計画を発表した。
「この計画は、彼らの物流システムにミドルマイルの要素を組み込むことを意味していると考えられる」と高島氏は話す。拠点数としては、ウォルマートのミドルマイル物流を担う拠点が全米で展開する約4700店舗であるのと比べると少数であるが、「実際に運用した成果次第で、拡充していくことを想定しているものと考えられる」(高島氏)。
また、成長途上にあるネットスーパー業態でもミドルマイル物流強化の動きが見られる。直近では、米ネットスーパー最大手フレッシュ・ダイレクト(FreshDirect)が、ブロンクスの大型物流センターを拠点とする物流の結節点として、ワシントンDC近郊にMFCを複数設置することを発表した。
1998年創業で、2002年からニューヨーク州近郊で事業を展開しているフレッシュ・ダイレクト。同社はイスラエル発祥でニューヨークに本社がある物流ロボット開発企業ファブリック(Fabric)と提携し、ピッキングやパッキングなどの配送準備作業を効率化するシステムを導入している。
フレッシュ・ダイレクトも、MFC設置のねらいは2時間の配送サービスの強化にあるとしており、サービスの迅速性を高めることで急拡大するニーズに対応する構えだ。
高島氏は「EC専業企業が、実店舗リテーラーに学ぶ形でミドルマイル物流を導入し、配送の迅速性を獲得できれば、実店舗リテーラーの優位性は相対化され、両者の競合は一段と厳しさを増していくだろう」と予想する。EC専業と実店舗リテーラーの競争が激化した先では、「価格」と「品揃え」に、「迅速性」を加えた、ECの“総合力”が問われることになりそうだ。