トライアルが福岡県宮若市と連携して「街づくり」に着手する理由
なぜ今「街づくり」に注力?
まさに「街づくり」と称して相違ない壮大な取り組みだが、気になるのはなぜトライアルがこのタイミングで同事業に着手したかということだろう。これについて亀田社長は次のような見方を示した。
「コロナもあって、時代が大きく変化している。もともと小売業は大量生産・大量販売でチェーンストアを展開して成長してきた。しかし、(そうしたビジネスモデルは)いよいよ変わらないといけない。これまでは「モノ」をどう届けるかだったが、これからは「人」を中心に考え、”住まう街”をつくるということにチャレンジしていく」
「今後はサステナビリティ(持続可能性)も大切になってくる。われわれはこれまでも居抜き出店を行ってきたが、今回も(宮若市内の公共施設などの)跡地を譲り受けてリノベーションしていく。日本は建物の価値を大切にしてこなかった。懐かしさみたいなのも残しながらデジタルを融合させていく」
「リテールAI」を標榜し、店舗・小売ビジネスのデジタル・トランスフォーメーション(DX)を先頭を切って推し進めてきたトライアルのイメージからすると、亀田社長の発言内容はやや異質に思えるかもしれない。しかし、コロナ禍で人々の働き方や生活スタイル、価値観が大きく変わるなか、トライアルという1つの企業・グループの枠組みを外して、外部企業や一般消費者とより近いところでコミュニケーションを取りながら既存のビジネスモデルに変革をもたらす――その取り組みのベースとなるのがムスブ宮若というプロジェクトであり、場所なのだろう。
もっとも、今回のプロジェクトがトライアルの店舗や商品、あるいは企業そのものに具体的にどのような変化を与えることになるのかはまだ見えてこない。とはいえ、AI開発というトライアルの中枢機能を宮若に置くことから、トライアルにとってムスブ宮若は今後の成長を大きく左右する重要なプロジェクトであることは間違いないだろう。小売業界内外からその動向に注目が集まること必至だ。