破綻が迫るアパレル企業の事業再生手法#4 オペレーション改革 最も大きなコストを最小化する
最も大きなコストは「マークダウンロスと商品評価損」「家賃」
具体例を挙げよう。例えば、現在、徹底的にいじめられている商社繊維部門だが、これは、「分かりやすい」という理由だけでコスト削減のターゲットになっている。私が提唱する4KPIの「企画原価率」だ。この「企画原価率」は、アパレル企業からみて「外部企業である」ということから、とかくターゲットになりやすい。そして、商社や工場は、これまでの「南下政策」によって、それに応えてきたことも事態を複雑にしている。その結果、商品は荒れ、口約束による簿外在庫が増大し、結果的に納期は遅れトータルコストは増大していることにアパレルは気付いていない。
例えば、百貨店アパレル企業の場合、正規価格を100とすると、家賃見合い(家賃に相当する納入率)は25-35%、人件費は10-15%ぐらいで物流費その他が5%、原価率が合計で45-55%ぐらいである。これらのコスト比率はオペレーションの改善によりある程度の削減が可能だが、売上低迷により相対的に増加しているため、すべて足すと100%を超えて利益が出ないどころか赤字になっているのは読者もご存じの通りだ。
在庫を資産としてバランスシートに放置しておき、なんとか損益計算書上で利益を絞り出しても1-2%という低い利益率になってしまうわけだ。例えば、最も大きな変動費である原価に着目し、その原価をブレークダウンすると、企画原価率が20%で、残りの30%がマークダウンロスと商品評価損の合計である。そして、もう一つのメガコストは家賃見合いである。今の世の中で、リアル店舗をだして利益がでるアパレル企業はほとんどない。それほど日本は地代が高いのだ。
ここから、最も大きなコストは「マークダウンロスと商品評価損」「家賃」であり、合計で総コストの約60%を占める、ということがわかる。総投入量におけるプロパー消化率があがれば、マークダウンロスは減ってゆき、原価は下がる。仕入れ先たたきよりもよほど効果がでるわけだ。
このように、バリューチェーンを俯瞰してみれば、調達原価など、たかが売上高対比で2-30%程度。さらに、そのなかの商社や工場の取り分、CMTを削減してもほとんど効果はでないどころか、ユニクロとの価格差は全く埋まらないことを知るべきだ。例えば、FOB(企業の仕入) に占める割合でいえば、「利益、CMT、副資材」が、それぞれざっくりと30%ずつなので、直貿により工場や商社の利益を半分にしても、消費者が手にするメリットは、商品売価に対して7%程度、つまり、10,000円の商品が9300円になる程度しかない。一方、2019年度貿易統計と市場規模推移から算出されるこの20年の商品上代の平均単価は40%も下落している。
「商社外し」がいかに不毛で、その結果、商品が“荒れ”、付加価値が失われてしまうというのは、こうした分析が背景にあるからである。このように、複雑に入り乱れるバリューチェーンを整理・分析し、全体を俯瞰した目でオペレーション改善によるコストターゲット絞り込むことが必要なのだ。商社も、この数十年、口八丁手八丁でアパレル企業の信頼を失ってきた。今になってCPFRをといっても、アパレル側から見れば「また、体の良いことをいっているのではないか」と疑われて当然なのである。バリューチェーンの全体最適が進まないのは、こうした数十年の「積年の恨み」が根底にある。商社とアパレルを行き来している私しか耳に入らない事実である。
結果、利益率を半分にされて生き残れる商社、工場はないから、実際に中国の工場は、この20年で統廃合を繰り返し、大資本に飲み込まれ、東南アジアやバングラデッシュなどに追いやられる、あるいは廃業の道を選び、こうした双方のだまし合いによって、日本向けの「作り場」は無くなりつつあることを知るべきだ。この「負の連鎖」に対して、ユニクロのように垂直統合を完成したSPA(製造小売)企業をのぞいて、産業全体で対策も打っていなければ気付いてもいない。
次回、「二枚目、オペレーション改善」のターゲットとその手法を解説したい。
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プロフィール
河合 拓(事業再生コンサルタント/ターンアラウンドマネージャー)
ブランド再生、マーケティング戦略など実績多数。国内外のプライベートエクイティファンドに対しての投資アドバイザリ業務、事業評価(ビジネスデューディリジェンス)、事業提携交渉支援、M&A戦略、製品市場戦略など経験豊富。百貨店向けプライベートブランド開発では同社のPBを最高益につなげ、大手レストランチェーン、GMS再生などの実績も多数。東証一部上場企業の社外取締役(~2016年5月まで)