Amazon Essentials(アマゾン・エッセンシャルズ)−− 米国で数々のアパレルを死に追いやったアマゾン(Amazon.com)のプライベートブランド(PB)である。実は、このPBが静かに日本上陸を果たしていることをご存じだろうか。「Death by Amazon」「悪魔との契約」「Amazon effect」など、数々の伝説を生み出したアマゾンの衣料品である。CEOのジェフ・ベゾスも「衣料品を強化する」と表明している。PBに関してはZOZOがハイテクを駆使しても撃沈した日本市場で、このアマゾン・エッセンシャルズはどのような戦いをしてくるのか。またアマゾン・エッセンシャルズは、米国と同様、日本のアパレルの多くを墓場に葬り去るのだろうか。今回は、満を持して登場したAmazon essentialについて、私の考察・分析を書いてみたい。
アマゾンのファッション担当者に私が進言した戦略とは
ここは東京・原宿にある神宮前交差点。高々と「Amazon Fashion」と書かれた看板が街を見下ろしている。米国で数々のアパレルを死滅に追いやったあのAmazon Fashionだ。日経新聞は、Amazonへの出店を「悪魔との契約」と呼び、そして、死滅に追いやられたBarney’s NY、トイザらスなどを Death by Amazon (Amazonによる死) と呼んだ。この強いキーワードは、いつしか Amazon effectという軟らかい表現に変わっていったのだが、この裏側にある「大人の事情」については I don’t careである。
今から6年ほど前、私がまだカートサーモン日本法人のトップを務めていたときのことだ。日本を代表するファッションビジネスの第一人者として、私はアマゾン・ジャパンの担当者に極秘で呼ばれたことがある。すでにその担当者は同社を退社しており時効と判断したのでその内容を語るが、大手町の一流レストランで会食をしながら私は相談を受けた。
その内容は「どうしても日本市場でファッション販売がうまく行かない。どうすればよいのかヒントが欲しい」というものだった。私は、「日本でのファッションビジネスは簡単ではない。日本人は衣料品に対して非常に厳しい目をもっており、米国のものを直輸入するだけではうまくいかないだろう。日本の商品政策(MD)を知り尽くした商社、例えば三菱商事などと手を組んで商品開発を行うべきだ」といった。実は、米国GAPから相談を受けたとき、私はレディース衣料を輸入品から日本企画に変えるように進言、その結果、売上が30%増加したからである。相変わらず、キッズとメンズは輸入品の方が売れていたのとは裏腹に、日本の女性はローカライズした商品でなければ気に入ってくれないわけだ。三菱商事を選んだ理由は、彼らが最も私の描く戦略を正しく理解し実行してくれる唯一の商社だからである。
私はそのアマゾン担当者にこう告げた。「日本のアパレルは、ネットのことよく分かっていない。おそらく、あなたの企業では、どのブランドがどのような服を販売し、何が売れているのか、また、誰に売れているのかといいうビッグデータを持っているはずだ。私が、アマゾンのファッション責任者であれば、こうしたデータを解析し、三菱商事あたりに生産委託し、売れている商品の類似品をつくり、それらをベンチマーク商品の80%の値段で売りまくる戦略をとる」と答えた。当時は、まだデジタルマーケティングという言葉もなかったが、デジタルとファッションビジネスの構造を理解していた私は、即座にそのように答え、その担当者は満足していったように帰っていた。
アマゾン出身者が明かす
「Amazon Fashionが本格稼働しない理由」
あれから6年、いつまで経ってもAmazon fashionは本格稼働しない。ただ、2018年には品川に日本最大の撮影スタジオを作るなど、「その気はある」ことは誰もが感じていた。では、Amazon fashionは本格稼働するのか、日本のアパレルはどのように待ち構えれば良いのか」。
以下は、複数のAmazon出身者にヒアリングした話である。彼ら曰く、実は「Amazon fashion」はすでにローンチ(立ち上がり)をしているというのだ。確かにアマゾンのサイトでアパレル商品がが売られている。だが、二次流通品や、街のセレクトショップの商品を飾っているかのいずれかである。これが、米国で数々のアパレルを死滅に追いやったアマゾンとは思えない酷さだ。
しかし彼らはこう説明する、外資系によくあることだが、「ファッションの責任者がコロコロ変わり、『モール型にする』『プライベートブランドにする』だのと社内は混乱し、結局、時間だけが過ぎている」、のだという。数多くの外資系企業を歴任してきた私にも思い当たる節があり、「なるほど」と合点がいった。
私が同社に提案した戦略は、「日本の商社を使うこと」、そして、「日本の企画で商品開発をすること」、最後に「数あるデータを解析し、売れ筋を把握して価格で下をくぐること」の3点だったのだが、この私の戦略はおそらく引き継がれなかったのだろう。
これと同様のこととして、私が一昨年、商社を10件以上まわり、私「デジタルSPA」を紹介した際、「それは素晴らしい」と誰もがいうが、結局は思い切った投資ができない、あるいは、「自社でやる」ということになり、我田引水型個別最適デジタル化に終わっていたことは説明したとおりである。私は、この「デジタルSPA」は、私にしかできないと思っているので、惜しみなく、戦略概要から細かな質疑応答にまで応じていた。私が「アパレルを2-3社ぐらいなら集めてくることができる、一緒にやろう」とまで言うのだが彼らの歯切れは悪い。
「他に戦略はないのか?」「デジタルSPA一択なのか?」と聞く商社に対して私は、「アマゾンは日本でファッションビジネスを立ち上げようとしている。日本のアパレル企業のOEMなどやっても、先は見えている。また、巨大アパレル(例えばユニクロなど)をクライアントにしても、その市場はレッドオーシャンだから、こき使われるだけこき使われて薄口銭が残るだけだ。重要な戦略は彼らが決め、あなたたちは手足のように使われるだけ。主体性のとれないビジネスなど商社のやることではない、それでも良いのか」と私は問いかけた。
そんなことをするよりも、「これから勝つアパレルをビジネスが小さいうちから囲い込んで、彼らのOEMを受託して、彼らが持っているデータを駆使したMDの適時、適価、適量生産をすればよい」と語るのだが、彼らは本気で動こうとしない。
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アマゾン・エッセンシャルズを徹底分析!その評価は?
さて話をアマゾン・エッセンシャルズに戻そう。何はともあれ、実際に買ってみなければ評価もできない。私は、アマゾン・エッセンシャルズはどんな商品があるか、点検していった(https://www.amazon.co.jp/b?ie=UTF8&node=7964847051)。
一言で言えば、「酷い」である。値段だけは恐ろしく安いが、下着まがいのものやホームウエアのようなものが多く、欲しいものがないのだ。「より高品質な普段着を」を書かれているものを見れば、ユニクロを意識していることは明らかだ。私はてっきりZARA型のMDで勝負をしかけてくると思っていたから、意外だった。「ひょっとしたら、ユニクロ並の高品質なものが揃っているのか」とも思い、いくつか購入したのだが、素材、縫製、仕上げどれをとっても、言葉を選ばずにいわせていただければ、「Garbage!!」 (ゴミ箱へ直行) である。
あえてよく言えば、「値段相応」だ。アメリカのスーパーなどにつるしで売っている安物の服と違わない。こんなものは、アメリカのスーパーなら通用するが、日本では通用しない。なぜこんなものを販売するのか理解できないというのが正直なところだった。普通に田舎のスーパーにいけば同じレベルのものが置いてある。おそらく社内では、未だに日本市場に対する攻め方で揺れているのだろう。
アマゾン・エッセンシャルズを成功させる戦略提言!
いずれにせよ、Amazon fashionのPB、アマゾン・エッセンシャルズは立ち上がった。誰も知らない中で、静かに。あれだけメディアで騒がれたアマゾンのPBである。このまま、スーパーの特売品のようなものを売り続けてゆくとは思えない。アマゾンが日本で猛威を振るうための唯一の方法は、日本の特殊性を理解することだ。つまり、単一民族で四季があるこの国では2万社もの中小零細企業がひしめきあい、ユニクロ、無印良品など国際ブランドが鉄壁の参入障壁を築いていると言う点だ。
そして、全世帯の5%しかいない世帯年収1000万円の層を、判で押したように「高くても買う人はいる」という無邪気な発想で、百貨店向けアパレルが次々と死んでいくいびつな構造に風穴をあけるためには、本来狙うべき95%の人口に対して、ユニクロ価格、あるいは、それ以下の価格でユニクロと同等、あるいはそれ以上の品質を実現することである。このセグメントには、ユニクロ以外にも外資SPA、ワークマン、無印良品、ハニーズ、しまむらなどがひしめきあっている。彼らに勝てなければ事業は拡大できないのだ。
そのためには、こんなレベルの商品で勝負するのでなく、日本の商社としっかり手を結び、マーケットを日本だけでなくグレーターチャイナ(中国、韓国、台湾)まで視野にいれて、素材開発からMDを一から設計し、データを駆使して「ニューベーシック」というアマゾンらしいセグメントを開発することだ。
日本で快進撃を続ける無敵のアマゾンである。できれば私の助言にきちんと耳を傾け、しっかりとしたビジネスプランを作っていただきたい。世界化に遅れ、日本の中だけで潰し合いを行っている日本のアパレルを本当の意味で強くしてゆき、世界で戦える企業に育てるためには、東京でZARAやH&Mがやっているような世界戦を激化させ、徹底して世界品質、世界レベルのビジネスモデルで勝負することしかないだろう。
静かにローンチしたアマゾン・エッセンシャルズだが、もし、このままでは消えていかざるをえないだろう。しかし、あのアマゾンがこれで終わりだとは誰も思わない。この1〜2年で、我々を驚かせる「何か」をしてくれると期待している。
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プロフィール
河合 拓(事業再生コンサルタント/ターンアラウンドマネージャー)