中堅アパレルが2030年まで生き残るには「人事改革」が必要な訳
世界で戦うためのビジネススキルを磨け
必要なもうひとつの改革は、ファッション教育におけるビジネススキル教育の強化だ。デザイナーが世界に出て戦うためには、クリエーションのほかにも、プレゼンテーション力やコミュニケーション力が極めて重要になる。たとえば、展示会におけるバイヤーとの交渉、コレクションにおけるメディア対応、ファッションコミュニティ内でのふるまいなど、いたるところで自分を表現し、売り込む力が要求される。
これらの能力なくして、世界的コレクションや展示会への参加を通して、ラグジュアリーメゾン、有力メディア、一流小売店のバイヤーで構成される現地コミュニティに認められるのは難しい。
しかしながら、日本人でこれらのビジネススキルに長けたデザイナーは少ない。海外のデザイナーとビジネススキルに差異が生じる要因としては、教育課程における違いがある。日本のファッションデザインスクールにおける教育内容は、クリエーションや製作に関する一般教養に重点が置かれており、ビジネススキルの養成は手薄に見える。そもそもビジネススキルを教えられる教員が少ないのかもしれない。
パトロン文化の強い欧米では、ファッションスクールにおいてもブランドを売り込むスキルを学んでいる。入学後 1 〜 2 年間は、自分で描いたコンセプトを相手にアピールするプレゼンテーション力の強化が徹底的に行われている。
日本のファッションデザインスクールでは、コンセプトが決まるとすぐに個別アイテムのデザインや制作過程へと移行し、プレゼンテーション力を身につけるトレーニングは海外に比べて少ない。また、欧米のファッションスクールには、世界中から生徒が集まっていることからグローバルに通用するコミュニケーション力(チームワークやリーダーシップ)をおのずと身につける環境にある。
一方、日本のファッションデザインスクールは留学生の割合が低い、またはアジアに偏っており多様性も少ないことから、グローバルなチームを束ねていくクリエイティブディレクターが育ちにくい。
実際に、これだけ多くの日本人デザイナーがいるにもかかわらず、海外の老舗メゾンでクリエイティブディレクターを務めるような人材がいまだに出てこないことからも明らかだろう。