中堅アパレルが2030年まで生き残るには「人事改革」が必要な訳
ファッション教育を強化せよ
これまで説明してきたように、全体を見れば同調圧力が強く、個性に乏しい日本人は、アパレルビジネスに不向きである。しかし、コムデギャルソンの川久保玲氏や山本耀司氏のように、際立った世界的デザイナーを生んできたのも事実である。2016〜2017年のパリ秋冬コレクションでは、パリでショーを行った 47 ブランドのうち、 10 ブランドが日本のものだった。 パリコレに出たデザイナーの 5 人にひとりが日本人という状況も国籍ランキングでいえば、トップに近い位置づけだ。
にもかかわらず、グローバルビジネスで成功しているブランドやデザイナーを生み出せているかというと、いまだ課題が多い。このあたりが日本的な奥ゆかしさでもあり、外国人から見て興味深いところなのかもしれない。
今後、日本が、グローバルに通用する傑出した個を生み出していくためには、何をすればよいのだろうか。筆者の考えでは、大きく「 2 つの改革」が必要になる。
ひとつめの改革は、国立大学におけるファッション教育の強化である。私学が強いアメリカと異なり、日本の大学教育システムの最高峰は国立大学だ。人文科学、自然科学、社会科学においては東京大学や京都大学だろうし、美術や音楽であれば東京藝術大学だろう。
残念ながら、これらの大学にファッションデザインを専門的に学ぶ学科は存在しない。山本耀司氏が慶應義塾大学を卒業したあと文化服装学院に入学しなおしたように、日本のファッションデザイン教育は、これまで専門学校が担ってきたのだ。
一方で、世界を見ると有名なファッションの教育機関は、基本的に大学が担っている。アレキサンダー・マックイーンなど、数々の有名デザイナーを生んだイギリスのセント・マーチンズは、ロンドン芸術大学のカレッジのひとつだ。同じくファッションスクールの御三家として有名なベルギーの王立アントワープ芸術学院やニューヨークのパーソンズ美術大学も大学である。これらの学校は総合芸術大学であり、専攻分野のひとつとしてファッションデザインがある。
ところが、日本の芸術大学の最高峰、東京藝術大学にはデザイン科はあるものの、ファッションを専門に学ぶコースは存在しない。大学と専門学校の優劣を議論したいのではない。日本の専門学校もいい教育をしているし、たくさんの著名なファッションデザイナーを輩出していることも事実である。
ただ、その国の最高峰である芸術大学にファッション専攻がないことは、その国におけるファッションの位置づけに関わる。芸術的に優れた感性をもっているのに、自己表現手段を絞り込めていない優秀な美大生が、ファッション分野に流れてこない構造なのだ。この大学教育におけるファッションデザイン分野の位置づけは、国として見直す必要があるのではないだろうか。