セブン& アイ 伊藤順朗常務に聞く「なぜ、今SDGsなのか?」「どう取り組むべきか?」
急速に変化する投資家の意識
──投資家について変化を感じることはありますか。
伊藤 本当にドラスティックですね。私がCSR統括部に在籍していた頃は、「CSR」や「ESG」「MDGs」という言葉は企業人にはほぼ知られていませんでした。投資家の方々との面談の際も、CSRに関心のある方はほとんどいませんでした。
潮目が変わったと感じたのは2年ほど前のことです。17年に機関投資家の行動規範である「スチュワードシップ・コード」が改訂されました。このあたりから、単なるリターンだけではなく投資先のサステナビリティや社会的責任を問う流れができてきました。
19年も国内外の多くの投資家の方々と対話しましたが、こうした分野への関心は本当に高まっており、同じ投資ファンドの中でもESGを担当する方の発言力が強くなっているように思います。また、世界最大規模のあるファンドの会長から毎年年初に発せられるレターも、今年はほとんどが環境に関する内容で、情勢は随分と変わったと実感しています。当社としても、19年6月に初めて「経営レポート(統合報告書)」を公表し、業績だけでなく、当社の考えやESGの取り組みについても投資家の方々と対話するようにしています。
──事業の継続性を追求することで中長期的にリターンを提供できる企業に変わっていかなければならないということですね。
伊藤 そう思います。サステナビリティやCSRに力を入れている企業の業績がよいかというと、直接的な相関はないかもしれません。ただ、何かあったときのレジリエンス(回復力)が強いというのは言えるでしょう。企業としてステークホルダーと強固な信頼を得ていることにより、想定外のことがあったときでも早期に回復できるのです。
取引先を対象に「CSR監査」を実施
──まさに企業としてのサステナビリティですね。お客さまの変化という点ではどうでしょうか。
伊藤 変わりつつあると思います。とくに若い層は環境配慮型の商品を求める方が増えています。おいしさや安全・安心は第一ですが、それにプラスして、その商品が環境にとってどういうものなのかという点をアピールしていく必要もあるでしょう。
ただ、まだ認知度の低い「MSC認証」を取得した商品をいきなり「買ってください」と提案しても売上にはつながらないでしょう。われわれのような小売業は、お客さまを「啓発」していくことも重要だと考えています。
そのための活動の一環として取り組んでいるのが、「“海の絵本”制作プロジェクト」です。海洋環境・水産業の関連団体とタッグを組んで、お客さま参加型のクラウドファンディングによって絵本を制作するという内容です。高齢化や後継者の不足といった漁業者の事情や海洋環境の問題など、今の日本の水産を取り巻く問題を、まずは子供たちに絵本を通じて学んでもらうことで、(実際に商品を購入する)お母さん方にも知っていただきたいという思いで取り組んでいます。
──サプライチェーンに関して教えてください。セブン&アイグループではプライベートブランド(PB)を展開しています。こうしたPBは自社でコントロールしやすい側面がありますが、ナショナルブランド(NB)や仕入れ商品については取引先にどのようなお願いをしているのでしょうか。
伊藤 NBメーカーさんには、当社からお願いするしかないのが現状ですが、大手メーカーさんは当社よりもはるかに取り組みが進んでいらっしゃるところがたくさんあります。また、当グループでは、年に1回、お取引先さまに集まっていただき、経営方針を説明する懇談会を開催しています。この場で、「売上・利益を追求しながら、社会に信頼される存在になる」という当社の考えを強調しています。
国内外のオリジナル商品のメーカーさんについて、5年ほど前からご理解をいただいたうえで、児童労働や強制労働、環境に対する違法行為の有無などをチェックする「CSR監査」も年間数百社のペースで継続拡大しています。われわれも調達方針を明確に出しておりますので、これに沿うような調達をお取引先さまにはお願いしています。