「圧倒的な商品力の差」から目を背け、「売り方」だけで勝負しユニクロに惨敗する悲劇
ユニクロの競争力の源泉は「売り方」にあらず
2020年元日、私は家族とともにショッピングセンターに新春セールに出かけた。服好きの私は、大手セレクトショップやブランドショップに入り、買い物を楽しんだ。私の好きなブランドのイタリア製ニットは、定価4万円のところ30%オフで2万8000円となっている。イタリア製のパンツは、定価3万円が2万1000円だった。とはいえ、これらの商品は、確かに定価と比べると安いものの、何万円も服にお金をかける位なら、そのお金で何回家族で食事ができるだろうと考えてしまった私はセールをスルーした。その後、家族に連れられユニクロに入り、幾度も経験済みの衝撃を受けた。
ユニクロは、店舗の一番前に「繊維の宝石カシミヤ」という打ち出しをし、ニットのセーターを5000円で売っていた。遠くをみれば、399円、1900円という数字が目を奪う。ニットビジネスの現場を9年経験した私は、ユニクロのホワイトカシミヤセーターを手に取り、その圧倒的なコスパを再確認し、先に見たセール対象品の2万8000円のメリノウール(梳毛の中では高級品だが、カシミヤより格は落ちる)セーターを思い浮かべた。
また、奥に入れば、世界的ヒット商品であるヒートテックがおいてある。いうまでも無いが、ヒートテックは東レと組み、素材原料から開発を行った他社を圧倒する保温性を持つ繊維製品だ。
ユニクロの打ち出しは見事で、自らの立ち位置をよく分かっている。決して、ファッション性を打ち出すことなく、ヒートテックの暖かさや、さらに、改良を重ねた商品の保温性を、迫力をもって打ち出していた。外国人が群がる店内では、奪い合うようにユニクロのセール品が売り裁かれていた。
ユニクロとの差は「作り方」 バリューチェーンに違いがある
「ここまでコスパが違うのか・・・」、私はため息が出た。そして、今、再建を依頼されているブランド・リテーラーに思いを巡らせた。ショッピングセンターに山のように存在するブランド・アパレル。そのコスパはユニクロと比較にならない。勝敗は明らかだった。
「もし、彼らに再建を依頼されたら・・・、打つ手無し」
これが、私の結論だった。日本の総人口の12%程度しかいないと言われる、年収1000万円程度の世帯でも一着3万円もするニットをおいそれと買うのは、よほどの服好きではない限り不可能だ。子育て、家と車のローン、そして、老後の貯金を考えれば、服は当然ユニクロになるし、我が家ではユニクロでも高いということで、娘達はGU(ジーユー)を買っている。私もユニクロを3年着ることもめずらしくない。いま、メルカリなどC2Cチャネルで最も売れているのがユニクロだということもよくわかる。家庭の幸せや状況を考えれば、3万円も4万円も服にお金を使っている場合でない。
ユニクロは、一見、世界の超優良都市に巨大店舗を立て、世界最先端の技術を導入し、世界の勝ち組を徹底的に研究して売場改革を進めている。しかし、それは、同社の商品の価格と商品価値のバランスがずば抜けて高く、圧倒的な競争力を持っているからだ。例えば、同じような綿のリブソックスが、某アパレルでは1500円だが、ユニクロでは300円。両社に品質差は無い。それほどユニクロの商品完成度は高い。それが、霜降り牛と化したバリューチェーンから生まれる商品と、綺麗でシンプルなバリューチェーンから産まれる商品の差である。
では、どうすればよいのだろう。