ユニクロ以外、日本のほとんどのアパレルが儲からなくなった理由_過去反響シリーズ
DCSオンラインで過去に反響の大きかった記事を紹介!(初公開2024年5月7日 記事は取材時の状況)
今回は、かつて日本のアパレル企業が大いに儲かっていた時代に行っていたことと、時代が変化するなか、ユニクロと無印良品が行ったことの対比を通じて、アパレルの本質に迫ってみたい。90年代以降の歴史を紐解きながら解説するので、なぜ業界の流れを正しく理解するうえでも役立つだろう。

かつては「ブランドタグ」をつけるだけでザクザク儲かった
1991年度、私は大学を卒業して総合商社イトマンへの入社が決まっていた。イトマンは繊維専門商社が安宅産業と合併した企業で、不動産、化成品、繊維などを事業軸とした総合商社の道を模索中だった。しかし、入社式目前、同社は経営破綻し、「戦後最大の経営犯罪」と呼ばれる大事故が起きた。人は離散し、海外の支店は次々と閉鎖。有能な人材は伊藤忠商事、丸紅などに商権ごと移籍していった。イトマンは大リストラを行い、4000億円の余剰在庫の一括償却を決め再起を図った。
その後イトマンは住金物産(現・日鉄物産)に吸収合併され、新生住金物産として心機一転、商社としては画期的な改革を次々と断行し存在感を表していった。この頃日本のアパレル企業は「DCブランドブーム」に乗って大きく成長中で、市場ニーズは極めて大きかった。当時、ワールド、オンワード樫山、レナウンは「御三家」と呼ばれ500億円規模のブランドをいくつも持ち、また、拡大させていた。商社は、より高い利益を得るため、原産地を韓国、台湾から、香港、広東省、上海、北京へ北上、さらには東南アジアのタイやマレーシアへ移し、人件費コストを下げる戦略を断行していった。その結果、「DCブランドブームによる売上増加」と「南下政策による低コスト」が合わさり、アパレル企業は国内市場に専念することで史上最高益を更新するほど儲かる市場(=日本)できあがっていった。
私も、住金物産でもっとも忙しい営業マンの一人となり、オンワードやワールドといった勝ち組企業と組んで、イタリア・フランスに年2回、中国へは月1回の出張を行い、世界を股に掛けてどんどん市場(=日本)を席巻していった。当時、住金物産は「向かうところ敵無し」といわれていて、実際私も私の周りの人間もそう思っていた。
しかし、当時から私には、どこか腑に落ちないところがあった
私がOEM受託した製品は、市場で売れる価格の20%程度であった。つまりアパレルは、2000円で仕入れた製品を1万円で売るビジネスだ。「BIGI」「Nicole」「Junko Shimada」「Melrose」など、「ブランドタグ」をつけるだけで飛ぶように売れていった。まるで、資源豊富な金山でザクザク金を掘っている感覚だ。
だが、その「ブランドタグ」には、欧米のスーパーブランドと比べるまでもなく、明らかにブランド価値や付加価値と言えるものはなく、ただの「分類名」に過ぎなかった。にもかかわらず、それらの「ブランド=分類名」は時代の流れもあり、巨額の利益を企業にもたらすため、次々と生まれていった。
私の違和感の本質は、そこに確固たる価値、骨太な価値を見いだせなかった、ということである。わかりやすく言えば「こんなビジネスがずっと成功し続けるはずがない」というのが、私の感覚だった。
しかし、多くのアパレル企業経営者はそんなことを考えるより、今儲かるビジネスを必死に刈り取ることに注力していったし、現実に儲かっていたため、そんなことを思う人はいても、語る人は誰もいなかった。のちにアパレル市場の覇者となる「一人の経営者」を除いて。
河合拓氏の新刊、大好評発売中!
「知らなきゃいけないアパレルの話 ユニクロ、ZARA、シーイン新3極時代がくる!」
話題騒然のシーインの強さの秘密を解き明かす!!なぜ多くのアパレルは青色吐息でユニクロだけが盤石の世界一であり続けるのか!?誰も書かなかった不都合な真実と逆転戦略を明かす、新時代の羅針盤!
河合拓のアパレル改造論2024 の新着記事
-
2025/03/19
日本人の服がこの10年で「ペラペラ」になった本当の理由_過去反響シリーズ -
2025/03/12
ユニクロ以外、日本のほとんどのアパレルが儲からなくなった理由_過去反響シリーズ -
2025/02/18
ユニクロと競争せず“正しい”戦略ポジションを取っているアパレルとは -
2025/02/11
「あえて着ない」人が増加中 スーツ業界の復活はあるのか? -
2025/02/04
参入多いが難しいアパレルの多角化戦略、成功の秘訣は? -
2025/01/28
正しいTOC(制約理論)の理解 余剰在庫と欠品が激減する本当の理由!
この連載の一覧はこちら [61記事]
ファーストリテイリング(ユニクロ)の記事ランキング
- 2025-03-12ユニクロ以外、日本のほとんどのアパレルが儲からなくなった理由_過去反響シリーズ
- 2024-09-03アローズにビームス…セレクトショップの未来とめざすべき新ビジネスとは
- 2025-11-04ユニクロの「棚割り」に見るインクルーシブMDへの“覚悟”
- 2021-03-05ビジネスは「一勝九敗」 ファーストリテイリングを世界的大企業に導いた“柳井哲学”
- 2022-11-29シーイン模倣騒動と大差ないアパレル業界のパクリ体質 シーインがそれでも勝つ理由
- 2021-05-11キーワードは科学、製販統合!「無敵のユニクロ」を凌駕する「知る人ぞ知る」ファッション商品
- 2021-05-18全産業中ワースト2位の不都合な真実、アパレル業界の環境破壊と人権問題を解決する方法
- 2023-08-28ユニクロと東レとのサステナブルな関係から生まれたリサイクルダウン
- 2023-11-14GMS衣料のジレンマと真実!イトーヨーカ堂アパレル完全撤退の必然とは
- 2024-09-27ユニクロが中間価格帯になったことに気づかない茹でガエル産業アパレルの悲劇_過去反響シリーズ
関連記事ランキング
- 2025-11-25ワコールを追い詰めた「三つの革命」
- 2025-12-02HUMAN MADE上場から考えるファッション産業の構造的限界
- 2025-11-27急拡大するリカバリーウエア市場を攻略する
- 2024-09-17ゴールドウイン、脱ザ・ノース・フェイス依存めざす理由と新戦略の評価
- 2025-03-12ユニクロ以外、日本のほとんどのアパレルが儲からなくなった理由_過去反響シリーズ
- 2022-04-22ユナイテッドアローズ重松理名誉会長が語る、創業秘話とビームスを立ち上げた理由とは
- 2021-11-23ついに最終章!ユニクロのプレミアムブランド「+J」とは結局何だったのか?
- 2024-09-03アローズにビームス…セレクトショップの未来とめざすべき新ビジネスとは
- 2025-11-24間違いだらけのアパレルDX改革、根本から変えるべき「KPIの設計哲学」
- 2025-11-26業態別 主要店舗月次実績=2025年10月度





前の記事

