売上100億円の超高収益アパレルが増殖の理由とユニクロとの共通点

河合 拓 (株式会社FRI & Company ltd..代表)
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ユニクロと共通する高収益のポイントとは

「ユニクロ 神戸三宮店」店舗イメージ

 ここで、一つの疑問を持つ方もいらっしゃるだろう。ビジネスの基本として、規模の大きい大企業ほどバイイングパワーを活用して安く仕入れられるから、低い原価率を実現できる。適正な価格で販売さえすれば高い利益率を確保でき、それは企業規模の小さな企業よりも優位ではないか、と。

 だがそれは、アパレル産業においては誤った認識である。

 アパレル企業が高収益になるのは、「余剰在庫を残さない」からだ。上で挙げた超優良アパレルのプロパー消化率は80%と極めて高いのだ。

 なお、仕入れた商品を売り切って、余剰在庫が残らなければ企画原価率の逆数が粗利益率となる。

 具体例を挙げて説明したい。アパレル企業が調達原価率35%の商品を1万円で売るとする(調達原価(=3,500円)。10個商品を仕入れた時、それがすべて売れれば10万円の売上となり、粗利益高は65000円となる。しかし、8個しか売れなかったらどうなるか?すると8万円の売上に対し、粗利益高は52000円となる。さらに売れなかった2個分の調達原価7,000円(=3,500×2)をどこかでマイナス計上しなければならなくなる。

 だから、アパレルは期末になるとセールで売価を半分ぐらい下げて(最近では3040%程度だが)、仕入れた在庫を売り切るわけだ。先の7,000円の損失も、50%のオフ率(値段を50%下げる)で、3,500円の損失に変わる。これが、セールのメカニズムである。つまり売れ残りが発生する場合、セールにしたほうが、セールにしないより儲かるのである。

 私達の多くは、セールを乱発すれば価格が下がって儲からないと考えている人が多いが、実際は、「上手にセール(売価変更)をやる」ことで、儲かるのである。

これはユニクロの強さの秘密でもある。ユニクロは、なぜあれだけ安価な商品を市場にだせるのだろうか。私の推論も交えると以下の通りになる。

  1.  そもそもの上代(販売価格)が安いため、プロパー消化率が高くなり、余剰在庫が最小化される
  2. 大量に購買するため調達価格が安くなる
  3. 上手に売変(あえて、セールとはいわない)をコントロールし、余剰在庫を残さない
  4. 店舗内人件費を下げることで、販管費を大きく下げブレークイーブンを下げる
  5. 商社など、中間流通を使わない

 スケールの違いはあれど、冒頭にあげた次世代のモンスターアパレルと「勝ち筋」が非常に似てはいないだろうか?逆に言えば100億円程度の企業にユニクロのような科学的経営管理、KPIをきちんと導入すれば、マッシュスタイルホールディングスがそうなったように1000億円企業へと飛躍できると思う。

        今、円安の影響もあるが、日本で企画したアパレルが復活しつつあり、企画力をみても世界で一目置かれる存在になりかけていると感じている。実際、私が相談にのっているアパレル企業のインバウンド比率は売上ベースで3040%を占めるほどに高まっている。商品をみても、日本人がつくったことがよくわかる丁寧な仕上がりで、実際に私が着ても(高くて何着も買えないが)非常に品質が高くデザイン性も高い。「すぐに劣化してボロボロになる」と話題のパリオリンピックのメダルとは大違いだ。

       アパレル産業は、人類が存続する限り終わりなく存続し続け、人口が増えれば好不況に関係なく、出荷枚数は伸びる。そして、まだ荒削りなるも、上記のようなモンスターの卵のアパレル企業が次々と生まれてきているのだ。今、アパレルのスタートアップに目が離せない。

       

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      プロフィール

      株式会社FRI & Company ltd..代表 Arthur D Little Japan, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナー等、世界企業のマネジメントを歴任。大手通販 (株)スクロール(東証一部上場)の社外取締役 (2016年5月まで)。The longreachgroup(投資ファンド)のマネジメントアドバイザを経て、最近はスタートアップ企業のIPO支援、DX戦略などアパレル産業以外に業務は拡大。会社のヴィジョンは小さな総合病院

      著作:アパレル三部作「ブランドで競争する技術」「生き残るアパレル死ぬアパレル」「知らなきゃいけないアパレルの話」。メディア出演:「クローズアップ現代」「ABEMA TV」「海外向け衛星放送Bizbuzz Japan」「テレビ広島」「NHKニュース」。経済産業省有識者会議に出席し産業政策を提言。デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言

      筆者へのコンタクト
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      記事執筆者

      河合 拓 / 株式会社FRI & Company ltd.. 代表

      株式会社FRI & Company ltd..代表 Arthur D Little Japan, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナー等、世界企業のマネジメントを歴任。大手通販 (株)スクロール(東証一部上場)の社外取締役 (2016年5月まで)。The longreachgroup(投資ファンド)のマネジメントアドバイザを経て、最近はスタートアップ企業のIPO支援、DX戦略などアパレル産業以外に業務は拡大。会社のヴィジョンは小さな総合病院

      著作:アパレル三部作「ブランドで競争する技術」「生き残るアパレル死ぬアパレル」「知らなきゃいけないアパレルの話」。メディア出演:「クローズアップ現代」「ABEMA TV」「海外向け衛星放送Bizbuzz Japan」「テレビ広島」「NHKニュース」。経済産業省有識者会議に出席し産業政策を提言。デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言

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