日本人の服がこの10年で「ペラペラ」になった本当の理由

河合 拓 (株式会社FRI & Company ltd..代表)
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自分らしさを全開にする=肌の露出が多いアメリカンなカジュアル

 セクシーカジュアルもといアメリカンカジュアルが流行る前の女性の服は、「相手目線のもの」だったようだ。例えば、「お付き合いしている彼氏のお母さんから褒められるような服」という意味である。だから、フリフリのかわいらしい服が百貨店に並んだわけだが、彼が米国留学中に見たものは、女性が社会にでて男性と対等に張り合っている姿だった。

 「このトレンドは必ず日本にもくる」

 そう直感した彼は、彼がみた「アメリカンカジュアル」を日本のアパレル市場に取り入れた。これが、いわゆるマルキューブランドの始まりなのである。それを、単にスカートが短いからといって、「セクシーカジュアル」としてしまう評論家の表層的な分析も苦笑ものだが、そんなことよりもっと驚いたのは、「自分を自分らしく見せるファッション=セクシーカジュアル=アメリカンカジュアル」だということなのである。

 つまり自分らしく自分らしさを表に出すという意味でアメリカンなわけだ。

「価格を上げられない」業界の思い込みが作ったペラペラの混紡

maruco/istock
maruco/istock

 その後、マルキューブランドは一世を風靡し日本中で流行したのだが、失われた30年の間に日本経済は停滞し、本来ならファッションを楽しむ若者から遊ぶ金を奪ってしまい、マルキューブランドはすっかり陰を潜んでしまった。例えば、ユニクロのカシミヤは1万円を切る衝撃プライスだが、目付はおそらく250グラムあるかないかだろう。百貨店で売っているカシミヤは300グラムぐらいの目付なので、カシミヤのように素材が高価な服は目付によって大きく原価も値段が変わる。

 生地がペラペラになった理由は、使用量の他にもう一つある。それは、質の悪い素材を使うことが増えているためだ。例えば、ウールにアクリルを混ぜたり、綿にポリエステルを混ぜたり、合成繊維を混ぜることで質を落とし、結果的に生地がペラペラになるのだ。とくに昨今のポリエステルまみれの服をみると、我々素材のプロは、「こんなもので大丈夫なのか」「これでよいのか」と驚いてしまう。

 また、小売の世界では、「一度値段を下げたら二度と上げられない」という都市伝説のような話がある。(誰も検証したことはないし、昨年は、アパレルがこぞって値段をあげても売上は落ちなかったから眉唾ものだ。)だから、高価な100%天然繊維から合成繊維混へ移行して価格を下げているのだ。その結果、素材に弾力性がなくなりペラペラになる。これは、一度、低価格で販売してしまったために、売価を元に戻せないから起きたことだと思われる。

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記事執筆者

河合 拓 / 株式会社FRI & Company ltd.. 代表

株式会社FRI & Company ltd..代表 Arthur D Little Japan, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナー等、世界企業のマネジメントを歴任。大手通販 (株)スクロール(東証一部上場)の社外取締役 (2016年5月まで)。The longreachgroup(投資ファンド)のマネジメントアドバイザを経て、最近はスタートアップ企業のIPO支援、DX戦略などアパレル産業以外に業務は拡大。会社のヴィジョンは小さな総合病院

著作:アパレル三部作「ブランドで競争する技術」「生き残るアパレル死ぬアパレル」「知らなきゃいけないアパレルの話」。メディア出演:「クローズアップ現代」「ABEMA TV」「海外向け衛星放送Bizbuzz Japan」「テレビ広島」「NHKニュース」。経済産業省有識者会議に出席し産業政策を提言。デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言

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