企業再生のプロが明かす、優れた戦略以上に「飲みニケーション」が企業再生に重要な理由
現場の信頼を得てはじめて戦略が正しく実行される
再生支援に入った企業から、ほこりをかぶった戦略コンサルタントのレポートを渡されたとき、内容を読んで何が書いてあるのかさっぱり分からなかった。アカデミックなコンセプトと最新の経営用語が横文字で並んだ提案書は複雑すぎて、誰に対して何をすればよいのか書かれていない。
部分的に拾い読みしてみれば、それらしいことも書かれているのだが、その裏にあるロジック、背景にあるメカニズムやリスクについては読み込めない。少なくとも経営の勉強をそれなりにしてきた私でも内容は分からなかった。
実際、ある戦略コンサルタントのいうとおりに問屋をはずして「中抜き」をした結果、中間流通から総スカンを食らい、工場稼働率が半分に落ちて大赤字になった製造業の建て直しを行ったこともある。
その提案書には「段階的に直接取引の可能性を模索しながら、注意しながら進めてゆく」と書かれてあった。しかし、「注意しながら」で済まされるほど現場は甘くない。現場はもっとドライで冷徹だ。「俺は、やる気はなかったのだが、先生(コンサルタント)が言うことだからやってやったよ」という態度だ。信頼感なくして正論を説いても、正しいメッセージを伝えられないということはこんなところからもわかる。
現場に対する配慮が大事
現場のやり方を変えるときは、その意思決定のプロセスに現場を巻き込む。重要な意思決定の事項ほど「一緒に作った」という共有感が大事なのだ。少なくとも、既存の決定事項をトップダウンで落とし込むというやり方はできるだけやるべきではない。
一方、こういうステップをきっちり踏んでいると、当初目指していた方向感がずれてくることがある。
このとき、譲れない部分と現場に任せる部分の見極めが大事になる。明らかに間違った方向に議論が進んでいるということが分かっても、そのままやらせたほうが無理に軌道修正するより成果に直結することが多い。経験が少ない人は、この段階で判断に迷い、現場と喧嘩することが多い。「このとおりやったら自動的に成果は出てくる」ということはほとんどない。担当者が「腹落ち」し、心のそこから納得している時にだけ成果は出せるのだ。また、成果がでたら、「本当はもっとよいやり方があった」などと言ってはいけない。「そのやり方だから成果が生まれた」と積極的に評価をしてあげることが大事だ。こういう地道なコミュニケーションを通して現場は活性化してゆくのだ。
事業再生の本質とは何か?
昨今のコンサルブームからか、事業再生という言葉の響きからか、「私も再生をやりたいです」という候補者の多くが当社の門をたたくようになった。彼らに、「なぜ再生をやりたいのですか」と聞くと、判を押したように「人助けをしたいです」という。また、裏では冒頭に上げた新人のように、「大企業で勤めた経験」を自分の力と勘違いし、人にものを教える立場に立ちたいという意識も見え隠れする。
しかし、我々は「人助け」と思ってこの仕事をしたことは一度もない。再生の局面ではむしろ「人いじめ」のような判断さえ必要になってくるからだ。再生の現場は、強いトップダウンによる戒厳令体制に近いといったほうが実情を表している。だから、誰にでもよい顔をしてもうまくいかないのだ。自分が全知全能の神になったつもりで乗り込んでも、現実はコンサルタントの名刺を持っているだけ、「実際は自分は人間だった」と気づくだけである。だから、こうした時、再生支援をする側に必要な意識は、なによりも事業に対する正しい評価に徹することだ。「この事業は残すべきだ」「この事業には将来性がある」という目と確信である。事業を残せば結果的に社会のためになり、結果として人のためになる。こうした考え方が、どの局面においても一本筋の通った判断を可能にする。
我々が、事業再生という仕事をあくまでも「事業視点」で考える最大の理由はここにある。
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プロフィール
株式会社FRI & Company ltd..代表 Arthur D Little Japan, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナー等、世界企業のマネジメントを歴任。
著作:アパレル三部作「ブランドで競争する技術」「
筆者へのコンタクト
https://takukawai.com/contact/
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