セブン-イレブンの残業手当一部未払い問題に学ぶ どの企業にもありうる“労務管理の落とし穴”

大宮 弓絵 (ダイヤモンド・チェーンストア 副編集長)
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「うっかりミス」が大問題に
二重、三重の確認は必須!

 今回の問題はなぜ起きてしまったのか。セブン-イレブンはその要因について、「適用法令の理解が十分ではなかったこと」、「給与支払い代行業務におけるチェック体制が不十分で長期間にわたり気づくことができなかったこと」の2点を挙げている。

 これに対して社会保険労務士法人人形町事務所代表の竹前彰氏は「『適用法令の理解が十分ではなかった』としているが、精勤手当、職責手当ともに残業代を計算する上で、算定基礎になる手当と認識していることから、法令の理解不十分というより『給与計算業務上のうっかりミス』と言った方が正しい」と話す。

 竹前氏が最大の要因とみているのが、セブン-イレブンが給与計算業務において、その方法が正しいのか第三者に確認の依頼をしていないと推測される点だ。

 一般に給与計算業務は、中小零細企業では、人事労務や経理にそれほど人員を配置するのが難しいため外部に委託するケースが少なくない一方、大手企業の場合は、人事労務部門や会計部門などで、自社で行っている場合が多い。セブン-イレブンは後者だった。

 「当事務所で企業の給与計算業務を請け負う場合、担当者が計算後、少なくともその他2人の担当者により、二重、三重でチェックしミスの発生を防ぐようにしている。また、疑問点があれば直接、労働基準監督署に確認している。こうしたチェックをセブン-イレブンが自前で行っていたかは疑問だ」(竹前氏)。

セブン-イレブンの永松社長
セブン-イレブンの永松社長

第三者機関を
利用することの重要性

 今回の計算式の設定ミスについては、物理的には給与計算ソフトの設定変更などにより完結するという。しかし竹前氏はその深層にあるセブン-イレブンの課題を指摘する。

 「残業手当の計算だけでなく、今まで何の疑いも無くやってきた労務管理の手法が本当に適切なのか、外部の第三者機関に依頼して精査してもらうべき。セブン-イレブンは、外国人労働者の採用も進めており、給与計算業務はさらに煩雑化していると想定され、現在の体制のままでは今後そのほかの問題も起こりうる可能性がある」。

 “24時間営業問題”、独自のバーコード決済「7pay」の不正利用問題、さらに今回の残業手当の一部支払い不足と、立て続けに組織のあり方を問われる問題が生じたセブン-イレブン。永松社長は「創業から45年が経過し、大きく環境が変わるなか、われわれがそれに合わせて変わることができていなかった」と述べている。

 竹前氏によると「セブン-イレブンのように、給与計算をはじめとした労務管理において、長いあいだ何の疑いもなく誤った方法を続けている企業はほかにも十分ありうる」という。セブン-イレブンの事例を他人事と思わず、今一度、自社の労務管理が本当に正しく行われているのか、第三者の視点からチャックしてみるべきかもしれない。

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記事執筆者

大宮 弓絵 / ダイヤモンド・チェーンストア 副編集長

1986年生まれ。福井県芦原温泉出身。同志社女子大学卒業後、東海地方のケーブルテレビ局でキャスターとして勤務。その後、『ダイヤモンド・チェーンストア』の編集記者に転身。

最近の担当特集は、コンビニ、生協・食品EC、物流など。ウェビナーや業界イベントの司会、コーディネーターも務める。2022年より食品小売業界の優れたサステナビリティ施策を表彰する「サステナブル・リテイリング表彰」を立ち上げるなど、情報を通じて業界の活性化に貢献することをめざす。グロービス経営大学院 経営学修士

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