ヤフーZOZO買収を読む、孫正義社長は“焼け野原”ZOZOを「楽天型総合サイト」に変える
ZOZOのヤフー傘下入りは、衰退期の収穫戦略
“焼け野原”を買う孫正義氏の壮大な狙いとは!?
その後のZOZOのあるいは前澤社長(当時)の、プロ野球買収、有名女優との交際から宇宙旅行まで、次から次へと繰り返される「劇場型ショータイム」と「騒ぎ屋」との共同ハウリングは、経営用語でいうところのハーベスト戦略、つまり、事業終焉時に市場から金を刈り取る戦略に見えた。しかし、こうしたワンマンショーも市場からの反感のほうが強くなり、株価は下げ止まらなかった。私は、ZOZOは、金を刈り取るだけ刈り取ったあと、最終手段として事業売却するだろうと1年前に予想していたわけである。
当時、私の頭の中には、一人の人間の顔があった。バロックジャパンの前身であるフェイクデリックの創業者その人である。彼は数々のスキャンダルを起こすも、フランス投資ファンドであるCLSAに事業売却し、個人で数千億円という金を手に入れた。前澤氏が、彼と交流があったのかどうかは知るよしもないが、今回のハーベスト戦略も、当時のフェイクデリックに酷似しているように私には見えたからだ。
念のために申し上げておくと、私は、個人の力で事業を創業し、会社を拡大した人間が創業者利益として何千億円を手に入れようが当然の権利だと思っているし、すばらしい事業才覚であると思っている。しかし、今回のZOZOの一連の不可解な騒動については、明らかに「騒ぎ屋」達、例えば、前述の経営学者や業務を知らない素人ベンダー達、生半可な知識で経営を語るアナリストやコンサルが、全く的外れなポジショントークをメディアで発信することで、株価上昇の要因の1つとなったことは事実だろう(当然、騒ぎ屋による株価上昇効果に、ZOZOの責任はない)。
私は、盛んに現場の人間に「もっとリアルを語り、ディベートせよ」と語っていたのだが、
1. デジタルアレルギー
2. ベンダーによる難解用語によるお茶にごし
3. 代替戦略が見えない行き詰まり感
の3つから、ネット上で「騒ぎ屋」の声が勝り、結果的に、アパレル企業はビジネス改革の基本をないがしろにし、無駄なデジタル投資を続けてゆき赤字を拡大させていった。そして、ZOZOの株価の下落と比例し、劇場型ワンマンショーは頻度を増し、結果的にヤフーに事業譲渡することでハーベスト戦略は終了する。
私は、決してデジタル化を否定する立場ではない。私が申し上げたいことは、「よく切れる刃物は、すばらしい調理包丁にもなれば、人を殺傷する武器にもなる。使い方こそ大事なのである」ということである。
最後に、仮に、こうした一連の分析が正しかったとしたら、百戦錬磨の孫正義氏(ソフトバンクグループ社長)が、「焼け野原」となったZOZOプラットフォームを何の戦略もなく買うはずがない。YAHOO、SoftBank、PayPayの三連携で、秋にヤフーは、『PayPayモール』というプレミアムモールを立ち上げるという。前述の通り、ZOZOTOWNはファッション好きの専門店から、Yahoo!グループに組み入れられることで、楽天型の総合通販と化すことになる可能性が高い。
Yahoo!含むソフトバンクグループの力をもってすれば、クロスセル、アップセルを組み込みZOZOの優良な顧客基盤に様々なビジネスを展開することも可能だろう。これは、生き残った中堅通販企業にとっては脅威となる可能性が高い。
しかし、そもそもZOZOの顧客基盤は、大手アパレル企業がゾゾグジットする前の、ファッション好きで構成されていたはずだ。鳴り物入りで登場したomni7が、必ずしも存在感を出せていないように、こうした専門店向けの顧客基盤に対して、総合通販が素直に受け入れられるかどうかはやや疑問がのこる。ネットだからといって何でも売れば良いというわけではないのがブランドビジネスだからだ。こうした矛盾をどのように解決するか、今のところ未知数でヤフーの力量が試されるところだろう。
プロフィール
河合 拓(事業再生コンサルタント/ターンアラウンドマネージャー)
経営戦略コンサルタント。ハンズオン型事業再生、再建を得意とし、これまでに国内外で再建に成功した企業は50社を超える。最近の事例では、マイナス100億の赤字企業を一年で黒字化し、成長軌道に乗せるなど、アパレル企業再生の第一人者。執筆、講演も多く、代表作「ブランドで協奏する技術」はアジアでも出版され知名度は高い。東証一部上場企業の社外取締役(~2016年5月まで)