ヤフー「ZOZO買収」を読む、孫正義社長は“焼け野原”ZOZOを「楽天型総合サイト」に変える!

河合 拓
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ZOZOスーツ失敗で得られた莫大な新規顧客とマーケティング効果

 次に失敗したと認識されている、ZOZOのPB(プライベートブランド)戦略について、考察を進める。当時のZOZOスーツに対する論調は、サイズ計測の精度ばかりをハイライトする議論が大半だったが、私の視点は全く違っていた。

 当時、ZOZOスーツは顧客獲得コスト(CPA )としてマーケティング活動の一つという位置付けで、無償配布は通販の基本であると説いていた。だが、数多くの通販企業の再建を手がけた私の経験からいって、あれほどの高額なハイテクツールを無料で配り、顧客の生涯購買(LTV)で回収できるはずがないと私は感じていた。実際、ZOZOスーツは失敗したと総括されているが、実は、私を含めた数十万人の顧客がクレジットカード情報をZOZOに登録した。全員にZOZOスーツを配布していないのだから、CPAは結果的に極めて高効率になっていたはずだ。これは、狙った戦略なのか、予想外だったかは知るよしもないが、このAcquisition (顧客の獲得)には、「騒ぎ屋」と呼ばれる連中が絡んでいたのは事実だ。

 当時私が着目したのは、この「騒ぎ屋」達だ。例えば、ある経営学者と称する人は、AI(人工知能)対人間というテーマで、スーツのサイズ精度について論陣を張っていたが、その論考は全く的外れなものだった。当たり前だが、リアル店舗で人間がスーツを作る場合、「サンプル」を着用し、サイズがあっていない部分だけを修正する。

 これに対して、AIによる写真による骨格検知やサイズ計測は「一発勝負」でスーツを作る。当然、前者の方が、精度は高くなるし、後者は一発勝負であるが故に失敗もある。この差は、AIと人間の差ではなく、計測プロセスの差だ。しかし、この学者は、おそらく自分でビスポークスーツを作ったこともなければ興味も無いのだろう。あくまで、AIと人間の能力差を難解な用語を語ってでお茶を濁し、全くアパレルとは関係ない無意味な議論を展開していた。今でも多くのAIベンダーは、アパレル業務の素人ばかりで、WHAT (人工知能とは何か)は語るがHOW (如何にして収益を上げるか)は、語らない。このため、奇妙なハイテクツールが出ては消え、消えては出るのはご存じの通りである。

 こうした、ポジショントークをとる「騒ぎ屋」達は、あちこちに生息し、服の消費者である女子のニーズを知ろうともせず、ネットで難解な用語で本質からずれた話を繰り返し、騒いでいる。その結果、奇妙なハイテクツールを世に溢れさせる結果となっている。

 「ZOZOは世界制覇をする」、「ユニクロを脅かす」など、まだ、PBの姿形も見えていない段階で、ZOZOスーツに対する理解不能な議論が一時期起きたのもこのころだ。この分析が的外れであることは、3月25日掲載の日経xTECHの分析で明らかになった。余談ながら、最近、これらのZOZO礼賛の記事や意見を再度探し出そうとしたところ、これらの多くが姿を消していた。

 ZOZOスーツはツールとしては失敗だったが、話題性という意味では恐ろしいほどの顧客を獲得したし、狙ったわけではないと信じているが、宇宙服のような初期バージョンスーツのノンデリ(デリバリーを途中で辞めること)によって、CPA (顧客の獲得コスト)は高効率になったはずである。

 私は、ZOZOが、「騒ぎ屋」を利用したとは思わないし、そう信じている。一方で、この初期バージョンスーツのノンデリとアパレルのゾゾグジットによって、ZOZOの株価は下がっていった。その頃、ZOZOは「禁じ手」ともいえる激安商品を乱発出店した。ZOZOはもともと好感度のブランドのみを扱うことで、そのステータスを上げていったはずだった。そのZOZOが激安品を売れば、好感度アパレルのゾゾグジットは当然加速する。

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