もうデフレの申し子ではない!? 新しい戦略で今期復活した吉野家
年度初めの高単価商品がけん引
2019年決算期の既存店数値では、松屋「売上高105.0、客数99.0、客単価102.9」(2019年3月期)、すき家「売上高103.3、客数100.9、客単価102.4」(2019年3月期)だったのに対し、吉野家は「売上高100.8、客数99.8、客単価101.1」(2019年2月期)であり、単月で見ると2018年10月以降、期末まで連続5カ月前期を下回っていた。
とくに2019年2月は「92.6」と大きく落ち込んでいた。同時期の2社は「松屋100.7」、「すき家103.0」であり、牛丼が特別嫌われたわけではない。
吉野家にとって好ましくない、この風向きを変えたのが、同社にとって新年度入り(2019年3月)早々に販売開始した「牛丼 超特盛」(本体価格723円、税込780円)だ。1991年以来28年ぶりに、牛丼の新サイズ発売ということで話題となり、発売から1カ月で100万食を突破。前月まで5カ月連続で前期比マイナスに沈んでいた既存店売上高は、2019年3月には108.1(客数102.3、客単価105.6)となり、同社ではその要因に「牛丼 超特盛」の好調をあげていた。
販促戦略はこう変わった!
吉野家は、1899年(明治32年)東京・日本橋の魚河岸で産声を上げた。つまり、2019年は同社の創業120周年にあたる。
同社が2018年12月28日に公表した「おかげさまで創業120周年」のニュースリリースにおいて、「還暦2回分の大還暦(120年)を【牛丼元年】と位置づけ、さまざまな施策を展開していく」と宣言していた。
同社ホームページの「News」を見ていくと、そのとおり実行していることがわかる。
単純にニュース本数だけの比較だが、2016年40本、2017年36本、2018年49本だったのに対し、2019年は9月4日までで67本のニュースがアップされている。しかも本数だけでなく、アップされている内容にも変化が見て取れる。
リリースの見出しに“初”が躍るものが目立っているのだ。吉野家初、吉野家史上初、令和初、外食“初”などだ。
先の上妻氏はこれを同社の「販促戦略の転換」ととらえている。ネットでの検索ヒットやオンラインニュースへの取り上げられやすさを考えた“初”の使用ではないか、と。自身の動画チャネルで『すきやき重』を取り上げるきっかけになったのも、「吉野家に史上初、“サーロイン”を使った商品が登場」という見出しだったという。コストを限りなく抑え、ネット上でSNSなどを通じて、しっかり吉野家ファンに届けられる販促。“初”はそのためのキーワードになったのではと分析する。