「働きがい」はどう創出する? 米小売から学ぶ、働きがいがある企業の条件
私が講師を務めたある講演会で「従業員に『働きがいがある』と評価される会社になるためにはどうしたらいいか?」という質問を受けた。
米『フォーチュン』誌は、毎年「働きがいのある企業ベスト100」(Fortune 100 Best Companies to Work For ®)のランキングを発表しており、小売業も必ず数社ランキングしている。たとえば、2022年度版なら、3位にウェグマンズ(Wegmans Food Market:食品スーパー)、12位にターゲット(Target:スーパーセンター)、33位にシーツ(Sheetz:コンビニエンスストア)、53位にアルタードステート(Altered State:衣料品販売)、92位にパブリックス(Publix:食品スーパー)、95位にナゲットマーケット(Nugget Market:食品スーパー)となっている。
質問者は「そうした企業は何をしているのか教えてほしい」と言うのだ。
「働きがい」のある企業は何をしているのか
「難しい質問だな」と思いつつ、2000年~2016年までの17年間にわたって同ランキングに選出され続けたコンテナストア(The Container Store)の創業者の1人キップ・ティンディル(2016年にCEO退任)さんにインタビューしたことを思い出した。
コンテナストアは、整理収納ソリューション、カスタムスペース、家庭内サービスを扱う米国で最初の大手専門小売業者だ。
1978年、テキサス州ダラスで創業。現在は、小売店舗、ウェブサイト、コールセンター(法人向け販売を含む)、家庭内サービス事業から構成される。全米33 州およびコロンビア特別区において、平均売場面積約 2275㎡の店舗を 95 店以上展開。2021 年度の売上高(連結)は 約11億ドル(対前年度比)となっている。
キップ・ティンディルさんへのインタビュー当時のコンテナストアは、このランキングの常連。人材の扱いについて次のように語ってくれた。
《当社では人材を優良資産と位置付けており、『優秀な1人の社員は普通の社員3人分に匹敵する』と考えている。
だから、給料は高く、小売業平均の1.5倍~2倍を支払っているけれども、それでも安いものだ。採用は社員の紹介を重視しており、従業員の60%はリファラル採用(他の社員の紹介)によるものだ。
合否のチェックポイントとして、①会話力と②接客力を重んじている。どんなに価値のある原石も磨かなければ光らないので、研修には時間をかける。
一般的な米国の小売業の研修時間7時間に対して、コンテナストアはその33倍に当たる235時間を費やしている……》
どの企業も「企業は人なり」と口をそろえて強調するけれども、従業員に「働きがいがある」と評価されるようになるには、それだけの努力をしている、ということがわかる──と私は話を締めた。
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