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アリババの手中に落ちるな!日本企業は中国市場攻略に綿密な戦略が必要な理由

私は毎週末、アジアや欧州の信頼できる友人達との会話を通し、世界のアパレル・ビジネスの情勢をアップデートし、自分が知り得た生の情報を用いて世界の経済情勢と照らし合わせて分析し、日本のアパレルの今と未来をスクールや研究会で現役のビジネスマンに教えている。今、私たちの世界は数年前の3倍の速度で動いており、昨年、すぐに旧態化するからだ。今日は、驚くべき中国の実態に迫ってみたい。

wonry/istock

中国ゼロコロナ政策に変化の兆し

 日本の論調として、中国のゼロコロナ政策(新型コロナウイルスを完全に消滅させる政策)に対する批判が多い。だが、日本で報道されているような厳格なロックダウンはすでになく、例えば、上海の人は比較的自由に上海区域内を闊歩することができる。今年の45月、上海はおろか自宅からも外出することは許されず、完全に自宅内に閉じ込められていた時とは、段違いである。

 その一方で、人民には3日に1度のPCR検査(無料)が義務づけられている。町中にはあちこちにPCR検査場が立ち並んでいる。

 省をまたいだ往来も、PCRの証明書があれば比較的自由になった。もちろん、地方に強力な統治権を持たせている国なので、地方により濃淡はあるようだ。

 今、中国で最も深刻な問題は若者の失業率だ。中国の18-25歳の失業率は、なんと18%程度と5人に1人は仕事がない状況である。例えば、過度な競争を排除するという目的で学習塾の閉鎖が行われるなど、我々の常識からいうと首をひねるような政策も行われた。

 こうした経済の弱体化と将来への危機意識から、実質的なゼロコロナ政策は緩和され、慎重ながら「人流の開放政策」にでたのではないかと思われる。

阿里巴巴集团 (アリババグループ)の驚異

maybefalse/istock

 さて、話をアパレル産業にうつそう。中国のアパレル・ビジネスを理解するためには、アリババグループについての理解が不可欠だ。なぜなら、中国のEC化率は2022年で50%以上となっており、いまだ一桁台の日本とは全く事情が異なるからだ(参考:https://products.sint.co.jp/siws/blog/ec-rate-2021# )

 つまり、EC大国中国へのマーケットエントリー(市場参入)は、EC化なくして成立し得ないのである。そこで、アリババグループだ。私たち日本人も耳にする機会が多くなったアリババグループだが、淘宝網(タオバオ)、天猫(Tモール)、We Chat、など、実際にビジネスに関わっていない方は、これらの関係がわかりにくいかと思うので、整理しよう。

 中国最大のECポータルといえば、アリババグループのタオバオ。このタオバオは、C2CB2Cが入り交じる、日本で言えばヤフーオークションのようなものと思えば良い。このサイトが急速に拡大した理由は、決済機能と商品瑕疵担保責任をデジタル技術を活用して解決したところにある。

 それまで中国では、「商品は送ったがお金が支払われない」「お金を払ったが商品が違うものが届く「商品が壊れていた」ということがあったようだ。そこに、決済機能で日本で言えばデビットカード(支払者の銀行口座の預金を担保にする)にし、そして、商品を受け取った人が実際に梱包を開けて依頼した商品であることを確認すれば、支払いが実行されるという仕組みをつくり、売り手と買い手、双方に問題が起きない仕組みを組み立てたのだ。

 次に、タオバオの中に、出店基準を厳格化したモールを開設したのがTモールである。このTモールは、半カオス状態となったタオバオ (B2CC2Cが混在)の中に、信頼おける企業であるユニクロや資生堂なども出店している。また、アリババグループは、4.5億人のユーザを持ち日本にも進出している電子マネーAlipayで通貨もきっちり掴んでいる。

恐るべきタオバオのビジネスモデル 出店料は5%だが…

Yongyuan Dai/istock

 日本では、その高額なコミッションフィー(出店料、いわゆる場所代)が批判されているモールだが、中国のタオバオのTモールへの出店費用は、化粧品、アパレル含め売上の5%程度と驚くほど安い。したがって、中国進出する日本企業は、まずはTモール、と飛びつくわけだが、気が遠くなるほど膨大な出店アイテム数の中で存在感を出すためには、モール内部でのPR費用を積む必用がある。これも平均すると売上の10%程度必要になるとのこと。さらに、日本では批判にさらされたモールの値下げセールだったが、これは中国でも同様でモール側の値下げ要求は恒常的に発生し、結果的には売上の20%程度が必要になってくる。

 また、タオバオは、広大な中国全土の物流をほぼカバーしている。中国では「ロジスティクス/ネットワーク設計」という、米国ではデジタル技術で解析しているようなハブアンドスポークを組む必要があり、独自進出は不可能だ。狭い島国では交通網が発達し、結果ロジスティクスという概念さえない(知っていても実際に意識することがない)日本人には理解できないことかもしれない。

 一方で、中国政府の規制によって中国では使えないサービスを見れば、アリババの狙いは一目瞭然となる。Amazonは競合なので言わずもがな。Google (YouTube)Meta (Instagram)も不可能で、なぜかMicrosoftAppleOKだ。これは、ライブコマースが「顧客データ」のEC送客の最も重要な手法であることを知っているからだ。

私は、以前の論考でこれからのアパレル・ビジネスは等しくD2Cに収斂され、

  1. ブランド
  2. ライブコマース
  3. ビッグデータアナリシス
  4. 在庫レスマーチャンダイジング
  5. 個別配送 x 越境物流

5つの機能を連携したShein(シーイン)の逆モデルの覇者が、世界標準のD2Cを実現できると説いた。この②のライブコマースと⑤の物流をアリババグループ一択となっており、結果的に、タオバオに集まる数万というテナントのおかげで、③のビッグデータアナリシスを行っているのである。

 YouTube、Instagramという、日本では20代女子の実に80%がファッション情報の仕入元となっているソーシャルメディア活用ができないのである。その背景には、同国が自国データの国外流出を強烈に締め付けている事実、さらに、同国では、ticktock、タオバオライブコマースなど、自社グループ内でのソーシャルメディアを用意し、アリババグループ内へ誘引する戦略でも明らかだ。中国でECを拡大することは、すなわち、アリババグループの軍門に降る以外の選択肢はないことになる。

 

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中国市場進出は、無意識の負け戦になる可能性も

 経済が以前より活況でないとはいえ、「老人国家、無欲国家。日本」より圧倒的に消費意欲は旺盛な中国である。1990年、日本でもアパレル産業は15兆円あり、長いバリューチェーンで、在庫リスクもないのに、商社や百貨店が20%30%も利益を享受していた時代があった。このとき、誰も、直貿と直営ビジネスが主流になることなど予想だにしなかった。

 今の中国は、その状態に似ているようだ。テナントに、「顧客IDは持っているのか」と聞けば、「物流の出荷先データから顧客の住所や名前が分かる。自社の売れ筋データもタオバオやTモールが公開してくれる」という。確かにそうだろう。しかし、絶倫といわれた日本でさえ、経済が30年も停滞し2万社弱ものアパレル企業、5万を超えると思われるブランドがひしめき合う時代になった。針の穴を通すような利益の積上げと、コスト削減を繰り返し数パーセントの営業利益を捻出するような状態になったら果たしてどうなるか、ということである。

「すでにアリババグループの手中に入っている状態」のまま、例えば、韓国企業や台湾企業などがTモールに出店している日本企業商品の「模倣品」を安価に出店し、大量に広告投下したらどうなるか?データベースマーケティングの基本である自社商品以外のクロスセルやアップセルによる顧客囲い込みは、単に物流による顧客IDをひたすら貯めても自社商品以外の広がりを見せず、MDの拡張や差別化による囲い込み施策は不可能なのだ。

 モール全体の中を個客一人ひとりが、どのように宇宙遊泳しているのか、その軌跡を追いかけることでデータベースマーケティングの力は最大化されるが、それらの拡張データはすべてアリババが保有することになり、多角化や新規事業を考えても、気づいたときは時既に遅しということになる。以前、私はTOKYO BASEが「リアル店舗」で存在感をだし、ブランド力をつけてECに出店するという戦略をご紹介した。中国では、ユニクロもリアル店舗、自社ECとあわせてT Mallに出店しているようだ。このように、中国進出には短期的な利益と構造的な勝敗は必ずしも相関しないことを考える必要があるようだ。

 最後に、アパレル産業を牽引するこれからの成長市場といわれる東南アジアに、すでにアリババは進出し東南アジアEC最大手ラザダグループを買収したことは記憶に新しい。まるで、高い位置から詰め将棋を見せられているように日本は詰まれていると感じるのは私だけだろうか。今、日本企業には一刻を争うスピード感が重要だと私は思う。

 

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プロフィール

河合 拓(経営コンサルタント)

ビジネスモデル改革、ブランド再生、DXなどから企業買収、政府への産業政策提言などアジアと日本で幅広く活躍。Arthur D Little, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナーなど、世界企業のマネジメントを歴任。2020年に独立。 現在は、プライベート・エクイティファンド The Longreach groupのマネジメント・アドバイザ、IFIビジネススクールの講師を務める。大手通販 (株)スクロール(東証一部上場)の社外取締役 (2016年5月まで)
デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言
筆者へのコンタクト
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