アリババの手中に落ちるな!日本企業は中国市場攻略に綿密な戦略が必要な理由

河合 拓
Pocket

中国市場進出は、無意識の負け戦になる可能性も

 経済が以前より活況でないとはいえ、「老人国家、無欲国家。日本」より圧倒的に消費意欲は旺盛な中国である。1990年、日本でもアパレル産業は15兆円あり、長いバリューチェーンで、在庫リスクもないのに、商社や百貨店が20%30%も利益を享受していた時代があった。このとき、誰も、直貿と直営ビジネスが主流になることなど予想だにしなかった。

 今の中国は、その状態に似ているようだ。テナントに、「顧客IDは持っているのか」と聞けば、「物流の出荷先データから顧客の住所や名前が分かる。自社の売れ筋データもタオバオやTモールが公開してくれる」という。確かにそうだろう。しかし、絶倫といわれた日本でさえ、経済が30年も停滞し2万社弱ものアパレル企業、5万を超えると思われるブランドがひしめき合う時代になった。針の穴を通すような利益の積上げと、コスト削減を繰り返し数パーセントの営業利益を捻出するような状態になったら果たしてどうなるか、ということである。

「すでにアリババグループの手中に入っている状態」のまま、例えば、韓国企業や台湾企業などがTモールに出店している日本企業商品の「模倣品」を安価に出店し、大量に広告投下したらどうなるか?データベースマーケティングの基本である自社商品以外のクロスセルやアップセルによる顧客囲い込みは、単に物流による顧客IDをひたすら貯めても自社商品以外の広がりを見せず、MDの拡張や差別化による囲い込み施策は不可能なのだ。

 モール全体の中を個客一人ひとりが、どのように宇宙遊泳しているのか、その軌跡を追いかけることでデータベースマーケティングの力は最大化されるが、それらの拡張データはすべてアリババが保有することになり、多角化や新規事業を考えても、気づいたときは時既に遅しということになる。以前、私はTOKYO BASEが「リアル店舗」で存在感をだし、ブランド力をつけてECに出店するという戦略をご紹介した。中国では、ユニクロもリアル店舗、自社ECとあわせてT Mallに出店しているようだ。このように、中国進出には短期的な利益と構造的な勝敗は必ずしも相関しないことを考える必要があるようだ。

 最後に、アパレル産業を牽引するこれからの成長市場といわれる東南アジアに、すでにアリババは進出し東南アジアEC最大手ラザダグループを買収したことは記憶に新しい。まるで、高い位置から詰め将棋を見せられているように日本は詰まれていると感じるのは私だけだろうか。今、日本企業には一刻を争うスピード感が重要だと私は思う。

 

「知らなきゃいけないアパレルの話」

アパレルはSDGsに殺される!なぜ多くのアパレルは青色吐息でユニクロだけが盤石の世界一であり続けるのか!?誰も書かなかった不都合な真実と逆転戦略を明かす、新時代の羅針盤!
書籍の予約は:『知らなきゃいけないアパレルの話』まで

3刷突破!河合拓氏の書籍

「生き残るアパレル 死ぬアパレル」好評発売中!購入は下記リンクから。

 

プロフィール

河合 拓(経営コンサルタント)

ビジネスモデル改革、ブランド再生、DXなどから企業買収、政府への産業政策提言などアジアと日本で幅広く活躍。Arthur D Little, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナーなど、世界企業のマネジメントを歴任。2020年に独立。 現在は、プライベート・エクイティファンド The Longreach groupのマネジメント・アドバイザ、IFIビジネススクールの講師を務める。大手通販 (株)スクロール(東証一部上場)の社外取締役 (2016年5月まで)
デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言
筆者へのコンタクト
https://takukawai.com/contact/index.html

1 2 3

関連記事ランキング

関連キーワードの記事を探す

© 2024 by Diamond Retail Media

興味のあるジャンルや業態を選択いただければ
DCSオンライントップページにおすすめの記事が表示されます。

ジャンル
業態