コロナ禍で大きな打撃を受けた外食業界。そのなか焼き鳥チェーンを展開する鳥貴族ホールディングス(大阪府)は、次代を視野に経営改革や新業態開発に取り組んでいる。ビジネスの先行きは依然として不透明なままだが、今後、いかなる成長戦略を描くのか。同社の大倉忠司社長に聞いた。
筋肉質な経営体質に移行
──コロナ禍に翻弄されたこの2年半をどう振り返りますか。
大倉 2020年4月、最初の緊急事態宣言が出されて以来、政府の要請に従い、休業、時短営業、もしくは酒類提供自粛を続けてきました。そのため業績についてはほとんど語ることさえできない苦しい時期を過ごしました。
22年1月、オミクロン株が蔓延し感染者が増加したことからもわかるように、状況は依然として不透明です。しかし21年10月以降、政府、各自治体の自粛要請などが順次解除されて以降は、少しずつ売上高が回復。21年12月以降、既存店ベースの売上高は、直近実績の5月まで前年実績をクリアしています。
──厳しい時期、注力した活動はありますか。
大倉 京セラ、稲盛和夫名誉会長の経営管理手法「アメーバ経営」を導入、実践しました。各種コスト削減に取り組んでコストを抑えたことで、ムダのない筋肉質な体制、組織に移行できたと自負しています。取り組み自体はコロナ禍以前にスタート、今年で4年目になります。
具体的には各店の経営をガラス張りにしてコスト管理を強化、定期的な会議の開催により、店長はじめ皆で成功事例を共有しました。おもに変動比率を低減したことで損益分岐点売上高比率を低減。昨年11月、12月は対前年同月の実績をクリアしましたが、まだ十分とはいえない水準です。それでも単月度黒字を確保できたのは、アメーバ経営の成果だと考えています。
──厳しい時期、どのような思いで経営にあたっていましたか。
大倉 今は我慢の時期、コロナ禍が収まった時、どう動くか、明るい未来を思い描き過ごしていました。
店は休業しても社員、店長の給与、賞与は100%保証しました。しかし誰しも働けないと不安になる。経営トップとして「居酒屋の未来は明るい」と前向きな考え方を発信し続け、従業員を勇気づけました。
店舗立地が変化する可能性
──「アフターコロナ」は、外食市場が以前の8割にしか戻らないとの悲観的な意見も少なくありません。大倉社長のお考えはどうですか
大倉 コロナ禍以前の水準近くにまで戻るとみています。約400年続く、庶民の楽しみである居酒屋文化はなくならないというのが私の持論です。
ただし変化する面もあります。立地は一例で、コロナ禍以前の好立地が、今後もよいとは限りません。リモートワークが浸透し、利用客が住宅立地の店に流れる可能性があるからです。実際、以前は平均的な業績の店が、大きく伸長するケースも出ています。明確な要因はつかめておらず、もしコロナ禍が収まれば以前の業績に戻るかもしれません。短期的に結論を出さず、様子を見る方針です。
──出店戦略を教えてください。
大倉 「2030年、国内に1000店舗」を目標数値に掲げています。22年7月期第3四半期末実績の店舗数は616店(うち直営店385店)で、あと8年間で残る約400店を出す計算です。
直営店だけでなく、フランチャイジーさまとも連携、国内47都道府県をエリア分担しながら店舗網を拡大します。出店できなかったこの2年半の分を巻き返そうと意気込んでいます。
──今年4月には「鳥貴族 日比谷店」を新規出店しました。住宅地立地に利用客が移行するとみる一方、都市部にも力を入れるのですか。
大倉 客足の戻りという点では、繁華街立地の業績が順調です。東京では新宿、池袋、渋谷などが当てはまります。フットワークのよい20、30代の若いお客さまが多く集まるエリアということも影響していると思われます。
「立地が変わる」と言いましたが、都道府県や地域によっても差はあります。そこは利用動向をしっかり分析しながら出店を進めていきます。
トリキバーガー、出店拡大進める
──新しいタイプの店を準備しているそうですね。
大倉 店舗面積10坪程度の店です。社員独立制度を拡充する一環で開発、すでに直営の実験店で需要を調査しているところです。今期以降、小型フォーマットの拡大にエンジンがかかる見込みです。
──独立を志向する従業員が多いのですか
大倉 各店を巡回、店長と話をしていると「出身地に戻り、自分の店を持ちたい」「お客さまと近い距離感で接客できる店を経営したい」との意見が多く聞かれます。その声を受け、実現したものです。
実は、従来も独立制度はあったのですが、店舗面積は40~50坪、投資額も数千万円と大きく、実際の独立者は年間1人程度しかいませんでした。新制度は、投資額も1200万~1400万円程度で済み、多くの志望者が出るはずです。
──一方、新規事業も立ち上げましたね。
大倉 21年8月、チキンバーガー専門店「TORIKI BURGER」(トリキバーガー)の1号店の大井町店(東京都)、22年3月には2号店、渋谷井の頭通り店(同)をオープンしました。
コロナなどの感染症の影響を受けずに展開できる、新業態を確立するのがねらいです。現状2店の業績を分析して運営ノウハウを構築、直営、フランチャイズの両方で積極的に出店できる体制づくりを早期に固めます。
──トリキバーガーは居酒屋と同様、国産食材を使用しているのが特徴。高品質、安全安心を訴求するという意味で居酒屋業態との相乗効果が生まれそうです。
大倉 もちろん期待しています。当社では16年から国産食材を使用していますが、実際に知っている方は全体の半数と限定的です。新規事業を機に認知度を上げたいと思います。
トリキバーガーは24年7月期までに10~20店まで広げます。実現のため業態開発、新規出店にかかる総投資枠も20億円確保しています。
正社員の賃金を平均3.1%引き上げ
──燃料や原材料などの高騰が相次いでいます。コスト増を受け、御社も4月にフード、ドリンクを値上げしました。来店客の反応はいかがですか。
大倉 価格改定は4年半振りですが、前回に比べてお客さまにはスムーズに受け入れられ、好感触を得ています。ただ当社は値上げするだけでなく、社員の待遇改善にも力を入れる方針です。今年8月から、正社員の賃金を平均3.1%引き上げます。
一方、各種業務や物流の効率化を進め、増えたコスト分を吸収するほか、生産性向上の努力を続けます。物流改革の分野では、従来、鶏肉の仕入れはベンダーを介していましたが、店舗へ直接納品する体制に移行させつつあります。現状、関東エリアの約半数の店舗で完了しています。中間流通をなくすことで、コストを抑えられるほか、短納期化により鮮度も向上、ロスも低減できます。
──今後の外食産業の見通しと、御社の成長戦略を教えてください。
大倉 二極化が進むでしょう。ミシュランガイドに掲載されるような高級店が支持される一方、低価格の大衆店も増えます。後者については競争が激化、再編は加速します。そのなか当社の成長戦略を描く際、海外市場への進出は必須です。
──いつから動きますか。
大倉 コロナ禍でストップしていた、海外進出計画を今年から再スタートさせます。2~3年後、アメリカで鳥貴族業態をオープンすることをイメージしています。アメリカを選択したのは、ビーフよりチキンの消費量が多いうえ、サプライチェーンを構築しやすい土壌があるからです。
日本全国、さらに海外へも進出、世の中を明るくしていく「グローバルチキンフードカンパニー」となれるよう努力します。
鳥貴族ホールディングス企業概要
設立 | 1986年 |
資本金 | 14億9182万円 |
本社所在地 | 大阪府大阪市浪速区 |
売上高 | 155億9086万円(2021年7月期) |
店舗数 | 616店舗(うち直営385店舗)*22年4月末時点 |