圧倒的に低い原価率が容認される秘密 知られざる外資スーパーブランドのビジネスとは
伊勢丹と丸井の対照的な戦略の違い
ここで一旦横道にそれて、日本を代表する2つの企業の話をしたい。
今から10年以上も前、私は伊勢丹と同時に丸井の仕事もしていたことがある。
伊勢丹は「自分たちは消費者の半歩先をゆく」というところに異常なこだわりをもっており、逆に、丸井は「お客さまは神様です」とばかりに、徹底して「お客さまの負」を潰していった。この2社は、厳密にはビジネスモデルは違うのだが、極めて対比的で興味深かった。当時、丸井はスーパー・ドリームチームを経営直下に組成し、日本で初めて(世界で初めてかも知れない)今でいうコンフォートシューズの先駆けともいえる「らくちんキレイパンプス」を生み出した。この商品は、丸井のファッションでもなければ機能品でもないポジションに合致し、また、女子大生の就活ブランドとして売れに売れた。私は、この商品を開発するためだけに、一週間女性モノのパンプスを履いて生活し、「女子たるもの、かくも足が痛くても我慢していたのか、むしろこれを解決すれば圧倒的な差別化が手に入る」とブルーオーシャンを見いだした。
一方、伊勢丹との仕事から、悪名高い百貨店の委託消化取引について、私は考え方を大いに変えることになった。伊勢丹に入り込めば入り込むほど、この「返品できる」という安心感が、どれだけ同社の商品在庫に対する恐怖からバイヤーを解放するのかがわかった。その結果バイヤーは「お客さま本位」で考え、行動に移すことができたのである。すべての現象には原因がある、ということだ。
すべてを類型化するのはよいことではないが、多少強引でもアパレル・ビジネスを類型化したくなるのがコンサルタントである。私は、初期的に本質的に差別性のないこのビジネスで頭一つ抜けでるためには、以下のビジネスモデルをスタートポイントにしている。これは、今後10年の戦い方の初期仮説である。もちろん、企業は個別企業ごとにすべて戦略はバラバラで、テーラーメイドはないが類型化された初期仮説は存在する。
- 工場は自らブランドを持つD2Cになる
- 商社は金融とデジタルクラウドハブとなるSMEs (中小企業)のハブ機能となり、投資を組み合わせる
- アパレルや小売は、大企業はバリューチェーン全体の垂直統合による大規模なコスト優位性を、中小企業および個人でさえ 2. に組み込まれ、共通化領域を同じくすることでスケールメリットと特徴を両立することができる
前置きが長くなったが、以降、本国コントロールによる日本やアジアのカントリーリージョンの業務内容について、日本との違いを解説したい。
「うちの倉庫の在庫簿価は某都銀の資産より多い」
さて、外資と日本企業のサプライチェーンの違いを理解していたとはいえ、度肝を抜かれることがあった。もっぱら、ものづくりから店頭配分までを商社に委託している(いた)日本のアパレル企業だったが、財閥系商社以外の商社が自社物流(例えば、三井物産なら商船三井など)をもっていることは珍しかった。その多く、いや、ほとんどが第三者物流だったが、その某メゾン(を日本で展開する会社)は都内の一等地に倉庫を持っていた。私は普通に「なぜ、このような賃料が高い場所に倉庫を持つのか」と社員に聞いたことがあったのだが、その時、彼は、「河合さん、我々の在庫簿価総額は都銀の資産以上もある。そんな在庫を第三者に任せられない」と。なるほど、最もな理屈だ。
また、驚愕すべきは、当時(今から10年以上も前)ここまでデジタル化が進んでいない状況下でも、実棚で違いがあったのは一つの商品のみ。その商品も、最後は見つけることができた」という事実だ。「本来は外部の人間は誰も入れないのですが」と前置き、私は倉庫の奥の奥まで入ったことがあるが、ここでは書けないほど圧巻な景色がそこにあった。商品一つが数億円などというのは当たり前の世界。自分がいかに荒っぽい仕事をしていたかを思い知らされてものだ。
おもしろいのは、アパレルなどのシーズン性が高い商品についてである。日本企業であれば、企業のルールによってライトオフまでの期間は商品によってまちまちだ。この点私は、この商品別価値の残存期間とライトオフルールを厳密にシンクロナイズし、ここにしっかりとした資金調達戦略を掛け合わせれば、企業は山のように収益がでると説いてきた。今でも、その考え方には変わりはない。
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